単身世帯4割、誰もが「孤独難民」になりうる…身寄りなし76歳が「孤独死」を覚悟した凄絶背景
2年前、自己破産の手続きをした芳子は生活保護を受け始めた。それでも困ったのが住居探しだ。家賃の安いアパートへ引っ越そうとしたものの、同じ市内で借りられる物件は見つからなかった。賃貸契約に必要な身元保証人になってくれる人がいなかったからだ。やっと見つかったのが、別の市にある築40年のアパートだった。 ■家族がいるのに、いない 今頭を抱えているのが、そのアパートの更新料だ。今年の9月が更新月だったが、計10万9700円の更新料を支払うお金がなかった。更新料には家賃約4万円に加え、一人暮らしの高齢者が加入する見守りサービス業者などへの料金(計4万6000円)が含まれている。そうした業者との契約がアパートを借りる条件だった。
生活保護には賃貸更新料への補助もあるが、上限があり全額は賄えない。猛暑続きだった8月の電気代が2万2000円に上ったのも痛手だった。支払えなかった更新料の残額は、今も月々分割で支払っている(下写真右)。 芳子には2人の兄がいるが、絶縁状態だ。7歳上の長男からは小学3年生から性的虐待を受けていた。被害は高校生になるまで続いたが、家族の誰にも言えず、一人耐えてきた。後に虐待によるトラウマが原因のPTSD(心的外傷後ストレス障害)と診断され、発達障害があることもわかった。芳子は「これまで自分の心を守るのに精いっぱいだった」と話す。母は多忙を極め、芳子と向き合うことは最期までなかった。芳子はノートにこうつづっている。
〈私には家族がいなかった。今だっているのにいなかった。だから必死になってずっとこの年齢まで家族をさがそうとした。けれどみつからなかった〉(上写真左) 知的で人懐っこそうな話しぶりの芳子は社交的なタイプに見える。だが、現在は友人とも疎遠になったという。「孤独を受け入れようとしているけど、人は完全に孤立したら生きるのは難しいと思う」。 今の芳子の心の拠り所は、東日本大震災のときに福島県からもらってきた猫だ。「生活保護なのに猫を飼っているとバッシングされるでしょ」と心配しながら、「この子を置いては逝けない」と言う。