単身世帯4割、誰もが「孤独難民」になりうる…身寄りなし76歳が「孤独死」を覚悟した凄絶背景
キャサリンは日本で生まれたが、両親が他界して孤児になり、アメリカで育ったのだという。「日本人の知り合いがいないから親しい友達が欲しい。退役したら日本に行きたい」と夢を語った。ついに退役が決まり、「訪日するために1億円ほどの退職金を康夫の家に送りたい。金を運ぶ警備業者に補償金として4500ドルを支払ってほしい」と頼まれた。 康夫は「日本に行ったら一緒に旅行したい」「金は必ず返す」という言葉を信じ、指定された口座に約60万円を振り込んだ。
それだけでは終わらなかった。警備業者を名乗る男は、さらに2万7000ドルの追加料金を要求。康夫は再び銀行に向かったが、銀行職員が詐欺ではないかと気づき、被害は食い止められた。すぐに警察に相談したものの、振り込んだ60万円のうち50万円はすでに別口座に送金されており、取り戻すことはできなかった。 ■SNS型ロマンス詐欺の被害が急増 SNSを介したロマンス詐欺は近年被害が急増し、被害額は2023年12月単月で24.6億円に上る。1件当たりの平均被害額は1000万円を超え、1億円超の被害も発生。被害者は男女ともに40~60代が多い。
康夫がキャサリンとやり取りをした期間は、たった2週間だった。毎日LINEで3、4回のメッセージを交換。相手は家族と写る写真も送ってきた。たわいない会話が、康夫にとっては貴重だった。 康夫は5年前、突然病に倒れ、今も後遺症に苦しむ。高齢の母以外には、遠方に暮らす親戚しか血縁者がいない。「同世代の家族が欲しいという思いがあった」と言う。 そして、一度も会ったことのない妹を捜し始めた。幼少期に母親と離婚した父親には、再婚相手との間に娘がいることを知っていたからだ。司法書士に依頼し、妹の名前を知ることができたが、居場所までは突き止められなかった。
キャサリンから友達申請が来たのは、妹捜しを諦めたときだった。康夫は「美人なので下心もあったが、孤児として生きてきた女性を助けてあげたいという気持ちもあった」と振り返る。病を機に膨らんだ孤独感に付け込まれた形だ。 ■家族がいないのは自己責任ではない 冒頭の芳子も康夫も、頼れる家族がいないのは本人たちの責任だろうか。単身世帯が4割に迫り、家族ありきの社会システムはすでに限界を迎えている。このまま社会から孤絶する人々を放置していいのか。前出の鎌村さんは言う。
「家族がいないのは自己責任ではない。家族がいなくても、その人らしく生きられる仕組みが必要だ」
井艸 恵美 :東洋経済 記者