初飛行から30年…毛利衛氏が語る宇宙新時代の「宇宙飛行士」とは
――では今後、職業「宇宙飛行士」はどんな役割を担うのでしょうか。 これまでと変わらず、今まで経験したことのない新しい自然環境を探し求め、探査をするということだと思います。地球に近い宇宙空間に民間人が頻繁に行ける時代には、新しいフロンティアである月を目指し探査する。やがて月に誰もが行けるようになってくると、宇宙飛行士は火星を目指す。つまり職業としての「宇宙飛行士」は、新しいことを探査するという役割なのだと思います。 ――具体的にどのような能力や資質が求められるのでしょうか。 昔からNASAにある「ライトスタッフ(Right stuff)=正しい資質、己にしかない資質」という考えは、これからも変わらないと思います。人類として新しい環境に行く際、「何を目的に行くか」なんです。例えば私の場合は、宇宙での科学実験をうまく行える人材として選ばれました。「アポロ計画」で月に行く時には、自分の操縦で目的地に到着でき、危機管理もできるということからテストパイロットのような人たちが選ばれました。月を探査する段階になると、パイロットのほかに地質学のような他の専門能力を持つ人が選ばれるようになりました。そういう過去から考えると、「アルテミス計画」(※後述)では月面に基地を建設する計画があるので、月をより深く知るための地質学、あるいは基地を作るための月面データを持ち帰れる人が必要になるでしょう。もちろん、宇宙は一歩間違えると死の世界なので、危機管理ができる人というのは今までと同じように求められると思います。
――未来館で行った来館者アンケート調査では、「どんな人に宇宙飛行士になってほしいか」という質問に対して、宇宙での体験を言葉や文学で表現できる人、SNSで発信できる人、という意見が見られました。ミッションを達成するのはもちろんのこと、地球にいる私たちに向けての発信力もやはり必要な能力なのでしょうか。 そうですね、私の時も単に科学実験だけをやるのではなく、子どもたちや親御さんに向けて宇宙がどういうところかを伝える宇宙授業をしました。国のミッションとして国家予算を使っている以上、税金を払っている国民全体に対してその意義を伝えられる宇宙授業は、非常に盛り上がる取り組みとなりました。 説得力のある言葉でうまく表現するというのは「科学コミュニケーション」の一つですが、そういう科学コミュニケーションができることは宇宙飛行士の必要な資質に入ると思います。しかし、それを生業とする人が必要になるのは、当たり前のように職業宇宙飛行士が月に行くようになる頃でしょう。宇宙や月を、科学的で面白くより上手に説明できるコミュニケーションを仕事とする人は、月でも必ず必要になると思いますよ。