袴田事件「無罪判決の瞬間」は異例すぎる光景に。傍聴人が法廷で目撃した「涙を流す“まさかの人物”」の正体
最大の争点であった「5点の衣類」について
次に、「5点の衣類」について認定事実が読み上げられる。「5点の衣類」とは、事件から1年2か月後の第一審の最中に、工場の味噌タンクの中の底から発見され、死刑判決時に犯行着衣と認定されたもの。 この部分が最大の争点で中心的な証拠であり、裁判所が審理で「『5点の衣類』で検察側の主張が崩れれば、全部が崩れてしまう」と言ったほどだ。 「5点の衣類」について弁護側は、1年2か月間も味噌タンクに沈んでいたにしては、血痕の色が赤すぎると主張。長期間みそに漬けると赤色から黒色へ変化するため、赤色ということは捜査機関が発見直前にねつ造したものだとしている。一方で、検察側は証拠写真のとおりに長期間みそに漬けても赤みは残ると主張した。 今回の判決では、長期間みそ漬けすると血痕は黒くなると認定され、勾留中だった袴田さんには発見直前に隠匿するのは不可能だとして、捜査機関による「ねつ造」だと断罪された。 「発見の近い時期に、(略)捜査機関によって血痕を付けるなどの加工がされ、(略)タンク内に隠匿されたもの」(判決要旨から) また、裁判所は、実家の捜索で発見された「ズボンの切れ端」についても、「捜査機関の者が持ち込むなどして押収したと考えなければ、説明が極めて困難である」として「ねつ造」を認定した。
裁判長からは謝罪の言葉も
判決の言い渡しは順調に進み、午後3時52分には判決文の読み上げが終了した。そして、國井裁判長はひで子さんに対して、証言台の前へ来るように促した。証言台の椅子に座ったひで子さんに、國井裁判長は「無罪判決について簡単に申し上げますが……」と説明を進めようとしたが、ひで子さんはご高齢で耳が遠い様子。 その時、急にひで子さんが椅子から立ち上がった。そして、裁判官席と証言台の間にある、書記官席の前に直立したのだ。耳が遠いからと、なんともひで子さんらしいお茶目さ。その瞬間、弁護団からも傍聴席からも笑いが起きた。 國井裁判長は、書記官に対して、ひで子さんのところまで椅子を持ってくるように指示。結局、書記官席の前に椅子を置き、裁判長からの説明を聞くこととなった。そして、國井裁判長は最後にひで子さんに対して、言葉を詰まらせながらこう言った。 「第一回公判で、ひで子さんから『巖に真の自由をお与えください』と言われましたが、真の自由を与えることは、裁判所にはその役割は与えられていません。ただ、自由の扉はちゃんと開けました。真の自由というのは、確定しないといけません。判決までものすごく時間がかかり、本当に申し訳ないと思っています。もうしばらくお待ちいただきたいと思います。これからも心身共にお健やかにお過ごしください。健康でいられることを心からお祈りします」 そして午後3時59分、世紀の裁判は幕を閉じた。