袴田事件「無罪判決の瞬間」は異例すぎる光景に。傍聴人が法廷で目撃した「涙を流す“まさかの人物”」の正体
注目されていた「ねつ造の認定」は
國井裁判長は、判決文の読み上げを始めてから数分でこんな言葉を発した。 「当裁判所は、(略)証拠には、三つのねつ造があると認められ、(略)被告人を本件犯行の犯人であるとは認められないと判断した」(判決要旨から) 「ねつ造」、この一言を聞いて筆者のメモをする手が止まった。複数の弁護人らが深くうなずく一方で、検察側は表情を変えない。「ねつ造」という文言は、これまでの再審請求審の中で静岡地裁(村山浩昭裁判長)や、差し戻し抗告審の東京高裁(大善文男裁判長)でも度々出てきている。 だが、今回は再審“公判”で「判決」。弁護団や支援者らから「ねつ造」まで踏み込んだ認定がされるのか、判決主文に次いで注目を受けていたほどだった。 今回の判決で「ねつ造」を認定したのは、「検面調書」・「5点の衣類」・実家の捜索で発見された「ズボンの切れ端」、の3つ。特に今回の判決では、過去の決定よりも「ねつ造」の認定が踏み込まれ、厳しく捜査機関を非難しているのだ。
傍聴席で涙を流す男性
まず、「検面調書」という検察官の録取した調書について、「ねつ造」の認定事実が読み上げられた。 裁判所は、警察署における自白前日までの19日間で、平均12時間という長時間の取り調べにより、肉体的・精神的苦痛を与えていたことや、検察官が警察署に訪れて疲弊した袴田さんに取り調べを行ったことを指摘。「警察官と検察官の連携により、非人道的な取り調べによって作成されたもので、実質的に捜査機関によってねつ造された」と認定した。 國井裁判長は、筆舌に尽くしがたいほどに酷い取り調べ状況を淡々と述べていく。筆者はこの時、後ろを向いて傍聴席を見渡したところ、右後方に座っていたある男性が上を向きながら目をつぶって泣いている。 その男性の顔を見て驚いた。“平成最悪の冤罪事件”と呼ばれている、「足利事件」で冤罪被害者となった菅家利和さんだったのだ。 足利事件とは、1990年に栃木県足利市で起きた幼女誘拐・殺害事件が発端となった冤罪事件。被疑者として菅家さんが逮捕され、裁判で無期懲役の判決が確定した。しかし、後に遺留品に残っていたDNA型を再鑑定した結果、真犯人が別人であることが判明。2010年、再審無罪となっている。 逮捕当時、菅家さんも警察の取り調べで髪を引っ張られるなどの自白強要によって、犯行を認めていた。第一審公判の途中で否認に転じたものの、無期懲役の判決が確定。袴田さんも同様に、自白したものの、裁判所を信じて第一審公判で否認している。 それだけに、過去の自分に重ね合わせたのか、時折うなずきながら、何かを祈るように目をつぶって上を向きながら涙を流しつづけていた。