肩こりはココを伸ばすとスッと楽になる…日本人が気づいていない体の重要組織「ファシア」と最強ストレッチ
では、ファシアの硬化や変形が、どうして肩や首のこりを引き起こすのでしょうか? ファシアはもともと柔軟性に富んでいて、スムーズに動く組織ですが、体を動かさないでいると硬化したり、悪い姿勢のままでいると変形してしまったりするのです。 例えば、「猫背」は悪い姿勢ですが、イスに座っているとき、猫背のほうが楽に感じるので、その格好を長時間続けるケースが少なくありません。ところが、猫背を続けると、背中や肩、首の周辺のファシアも変形したまま、硬くなってしまいます。筋肉をカバーするファシアが歪(いびつ)な形状になれば、筋肉も正常に働けなくなり、こりの大きな原因になると考えられます。ファシアには「感覚受容器」があって、硬化したり変形したりすると、痛みを感じるとも考えられています。 ファシアが変形して硬くなった状態で、筋肉だけをほぐそうとしてもうまくいきません。もし筋肉をマッサージしても、こりが取れなかったり、痛みがぶり返したりするなら、ファシアの硬化や変形が疑われます。こった部位の肌をつまんでみましょう。皮膚と一緒に皮下組織がうまくつまめなければ、ファシアが柔軟さを失っている証拠と見ていいでしょう。 ■「ストレートネック」もストレッチで回復する 変形して硬くなったファシアをほぐすには、体を動かしながら、姿勢を矯正する「ストレッチ」が最も有効です。ファシアは、運動すれば柔らかくなり、正しい姿勢を取っていると「形状記憶合金」のように、正常な状態に復元する性質を備えています。ファシアに包まれている筋肉も一緒に動かせるので、血流の改善や疲労物質の排出などの効果も期待できるでしょう。 実は、私も研究論文を書くのに忙しかったとき、ずっと前屈みの姿勢を続けていたため、「ストレートネック」になり、首や肩が痛くなってしまいました。首の骨は「頸椎」という短い骨が連結していて、本来、緩やかな「S字カーブ」の形ですが、頭を前に突き出していると、頸椎が一直線になってしまいます。そのような状態のことをストレートネックといいます。 その状態が続くと神経を圧迫して、手足がしびれたりする「頸椎症」になることもあります。「ストレートネックは治らない」とも言われていますが、私がストレッチを試してみたところ、ストレートネックがS字カーブに戻ったのです。首の周りのファシアが正常化され、首の骨も正しい形状に回復したのでしょう。 私は整形外科が専門ですが、理学療法科も兼任しているので、患者さんにもお勧めしたところ、「肩や首のこりが治った」という人が続出しています。 肩や首のこりに効くストレッチをご紹介しますので、毎日、1~2時間に1セット行うことを目安に続けてみてください。家でリラックスしているときや仕事の合間などに、ファシアをほぐしましょう。 ストレッチを1週間ほど続ければ、肩や首の周りのファシアが正常な状態になり、解消できなかった肩や首のこりも取れるでしょう。もしそれでもこりが取れない場合、ほかの重大な病気の可能性もあるので、念のため、医療機関を受診してください。 肩や首のこりを解消したいのなら、水も多めに摂取しましょう。ファシアの柔軟性を保つのに必要だからです。寝ているときに頭を正しい位置に保つ枕も役立つでしょう。入浴も肩や首の血行を促進するので、ファシアがほぐれます。入浴後にストレッチをすれば、効果倍増。ぜひお試しください。 ※本稿は、雑誌『プレジデント』(2024年12月13日号)の一部を再編集したものです。 ---------- 高平 尚伸(たかひら・なおのぶ) 北里大学医療衛生学部教授 北里大学医療衛生学部教授。専門は股関節外科、最小侵襲手術(MIS)、スポーツ医学、運動器リハビリテーションなど。医学博士、日本整形外科学会専門医。1964年生まれ。整形外科の領域では、はっきりとした治療法が見いだせない不調に対して、早くからセルフケアの重要性に着目。誰にでも簡単にできるストレッチをテレビ番組や動画などで紹介している。 ----------
北里大学医療衛生学部教授 高平 尚伸 構成=野澤正毅 撮影=石橋素幸