なぜ“ミスターセレッソ”FW柿谷曜一朗は名古屋グランパス移籍を決断したのか?
迎えた今シーズン。新型コロナウイルス禍で余儀なくされた過密日程で、総力戦が求められた状況とは対象的に、24試合に出場した柿谷のプレー時間は752分間に甘んじた。2018、2019両シーズンで18回を数えていた先発の回数が、今シーズンはわずか6回にとどまっていた。 主戦場をフォワードから中盤に移して久しい状況で、ロティーナ監督が掲げる[4-4-2]のサイドハーフには左に万全のコンディションを取り戻した清武が定着し、右にはモンテディオ山形から加入したレフティーの坂元達裕が大抜擢された。途中出場か、中2日や中3日での連戦が続くタイミングで回ってくる先発を、柿谷はフォア・ザ・チームの精神から前向きに受け止めていた。 「キヨ(清武)もそうですし、タツ(坂元)もそうですけど、僕が出られるポジションの選手たちがずっと試合に出続けてきたなかで、どうしても疲労が溜まってくる時期があるので」 言葉通りに今シーズンのリーグ戦で柿谷があげた唯一のゴールは、清武と坂元がともに出場なしに終わった9月16日のヴィッセル神戸戦で、決勝ゴールという形で生まれている。 堅守をベースとするロティーナ監督のもとで昨シーズンは5位、今シーズンには4位に入ったセレッソは、天皇杯の結果次第では来シーズンのACLにも出場できる。チームが刻んできた軌跡には満足できても、個人のそれに対しては不完全燃焼の思いを抱かずにはいられなかった。 特に最後の12試合はベンチ外と途中出場の数がともに6回で同じだった。今年1月に30歳になった柿谷は、まだまだ先発でゴールも積み重ねられる、という自負を再び名古屋から届いたオファーに後押しされ、甘えの許されない新天地で勝負をかけたい、という決断に至ったのだろう。 セレッソを通じて発表したコメントの最後は、ベテランの域に入った一人のサッカー選手として、愛してやまない古巣への未練を断ち切って旅立つ気概が込められている。 「尹さんと共にカップ戦を制し、ロティーナ監督と安定した戦いができるチームに成長していく仲間達と過ごした時間は素晴らしい財産になりました。そしてなにより背番号8をつけて戦う嬉しさ、楽しさ、辛さ。すべてがかけがえのないものになりました。チームを離れますが、サッカー選手 柿谷曜一朗を応援してもらえると嬉しいです。長い間、本当にお世話になりました」 リーグ最少失点の堅守を武器に3位に入り、来シーズンのACL出場権を得た名古屋には、セレッソの後輩だったDF木本恭生も加入することが同時に発表された。FW齋藤学(川崎フロンターレ)、MF長澤和輝(浦和レッズ)、DF森下龍矢(サガン鳥栖)らも補強のターゲットに掲げ、国内タイトルはもちろんのこと、アジア制覇をも見すえる名古屋の大型補強の中心に完全復活を期す柿谷がいる。 (文責・藤江直人/スポーツライター)