「ポケモン×工芸展ー美とわざの大発見ー」(麻布台ヒルズ ギャラリー)レポート。世界的人気シリーズと伝統工芸の豪華なコラボを探せ!
想像を膨らませる冒険へ
第2章は、ポケモンの育成・進化・交換などの要素や旅の仲間と育んだ友情など、工芸の素材と技とを携えて、作家たちが想像のフィールドを駆け巡る「ものがたり ~浸る!~」。 ポケットモンスターシリーズの象徴とも言えるピカチュウ。テキスタイルデザイナーの須藤玲子による《ピカチュウの森》(2022)は作家が感じたポケモンの可愛さをテキスタイルで表した作品。インスタレーションの中に足を踏み入れ、写真撮影も楽しむことができる。 これまでほとんど携帯型ゲーム機に触れてこなかった池本一三が、本展をきっかけに『ポケットモンスター ソード・シールド』を初体験。そのインスピレーションで制作された器は、3章構成の立体絵巻だ。ポケモンファンにはお馴染みのモチーフが、池本の独特な風景描写とシームレスに交わり、見る者を引き込む。 林茂樹は、自身の作品が「国や文化、世代を超えた世界共通言語」となることを理想に掲げ、陶芸の新しい表現を追求している。本展のために制作したのは、特殊なスーツを纏ったポケモントレーナーの陶器作品《月光 Pokémon Edition》(2022)だ。繊細なディテールに想像の「遊び」もたっぷりと盛り込まれている。 可変金物作家の坪島悠貴が手がけたのは、ココガラとアーマーガアの2匹のポケモンをひとつの可変金物で表現した作品。50以上のパーツで構築された小さなボディには、工芸を考える様々なヒントが巧妙に隠されている。
暮らしのなかにあるポケモンたち
最後の章は、生活の様々なシーンを美しく整え、活力を与えてくれる工芸品の機能や装飾の文法と価値観にポケモンが挑戦する「くらし ~愛でる!~」。 桑田卓郎が選んだモチーフは時代のアイコンであるピカチュウ。「現代の最高峰とも言える岐阜の量産技術を追求しながら制作するカップに配するには、ピカチュウ以外にありえない」とのリスペクトの気持ちがこもっているという。カップの底から姿を見せるピカチュウの愛らしさに、日本のものづくりの熱意を辿ることができる。 器からポケモンが飛び出したり、器がポケモンに切り取られたような遊び心あふれる作品を手がけたのは、陶芸家・桝本佳子だ。本展の企画趣旨を知った作家は、焼きものと切り離せない「炎」を想像し、迷わず「ほのおタイプ」のポケモンをモチーフに選んだという。 植葉香澄の作品の印象を決定づけるのは圧倒的な文様のパワーだ。本展のモチーフに選ばれたポケモンたちが全身に色とりどりの文様をまとい、鮮やかに登場。一つひとつのデザインが繊細かつ大胆で、ゆっくりと眺めながらその意図を読み解く楽しさがある。 桂盛仁が「彫金」で重要無形文化財保持者(人間国宝)に認定されるにあたり、とくに高く評価されたのが金具の制作技術だ。本展では、赤銅を用いたブラッキーの金具作品が登場。その可愛らしい姿は、グッズとしても購入可能で、ファンにはたまらない作品だ。 愛らしいポケモンと伝統工芸が出会うことで生まれる「かがく反応」に挑んだ本展。人間国宝から若手作家まで、20名のアーティストが真剣に向き合って、情熱を込めて生み出した作品が勢ぞろいしている。その熱意と技術をぜひ堪能してほしい。帰り道にグッズ売り場に立ち寄って、限定グッズをチェックするのもおすすめしたい。
Alena Heiß