麻痺した足が動き出す ── 足こぎ車いすCOGYが放つ“夢見る力”
和気あいあいの体験試乗会
大阪府堺市の特別養護老人ホーム「ハーモニー」で開かれた、COGY体験試乗会。足の不自由な人や介護福祉業界の関係者などが集まった。 84歳の上林さんは3年前に転倒し、入院している間に足腰が弱ったという。「QOL(生活の質)を上げたい」と、和歌山県から初参加した。COGYの乗り方を指導するのは伊藤あきらさん。交通事故で車いす生活を経験したことから、普及活動に関わっている。 さあ、リラックスして目をつぶって、肩の力抜いて いすに座ってるんじゃない、体の一部と思ってください COGYに乗るのは、古武道の感覚と一緒です 何周も回って汗をかいた上林さん。「いざ街に出て独りで使うとなると不安もあるけど、慣れたら楽しくなりそう」と前向きだ。
「COGYを広めたい」一心で全国を飛び回る
床に座ってCOGYの修理をしていたのは鈴木堅之(けんじ)さん。小学校教師をしていた20年以上前のある日、テレビで「東北大学が開発する足こぎ車いす」の話題を目にした。動けずに病院で寝ていたおばあさんが、ペダル付きの車いすに乗った途端、スイスイ走り回る姿に衝撃を受けた。担任するクラスに車いすの子がいる。「あの子にもどうか」と思ったのがきっかけだった。 教員を辞め、足こぎ車いすを扱う医療ベンチャー企業に就職するも、会社が倒産。それでも普及させたい一心で東北大学から権利を譲り受け、製造・販売を手掛ける会社、TESS(宮城県仙台市)を34歳で立ち上げた。 設立から16年。価格は1台50万円ほどで、これまでに1万台以上を販売した。「より多くの人に試してほしい」と、最近はサブスクリプション(月極め利用)の導入を検討中だ。海外でCOGYは「日本の発明品」として注目を浴び、ベトナムでは「足こぎ車いす療法」が正式な医療行為として認定されている。 「使ってよかった、という声を広めてもらうのがいちばんです。足こぎ車いすが選択肢の一つになり、文化として定着すると、社会はきっと変わるはず。足が不自由でも人生を諦めない、前向きな人を応援する象徴になれば」と、鈴木さんは熱く語る。 試乗会を取材した私は、「このすばらしさを一人でも多くの人に伝えたい、体験してほしい」という熱意に感動を覚えると同時に、“COGY愛”にあふれた人たちの放つエネルギーに圧倒された。 一般社団法人シンクロプラス の友野秀樹さんもその一人だ。COGYユーザー同士が「自分と同じ症状の人がどう活用しているか」情報交換できるよう、Facebookグループを立ち上げた。故郷の奄美を拠点に、全国普及を目指し活動を続ける。