「安くて当然」を覆す! 「豆腐バー」「うにのようなとうふ」なぜヒット? “豆腐革命”の正体に迫る
豆腐は日本の伝統的な食品だ。大豆を原料としていて、タンパク質が豊富で栄養価が高い。コレステロールが含まれないのもポイントだ。 【画像】豆腐がすごいことになっている! 大ヒット「豆腐バー」、うにのような豆腐、白子のような豆腐、マスカルポーネのような豆腐、新しい可能性を感じさせるランチの豆腐御膳、豆腐めし(計14枚) しかも、値段が安い。激安のスーパーやドラッグストアでは、1丁50円を切る価格で販売するケースもある。物価高の時世、豆腐の値段もじりじりと上がってはいるが、食用油や牛肉に比べれば、まだまだお財布にやさしい“物価の優等生”と言えるだろう。 一方で、輸入大豆の価格や石油製品である容器が値上がりしている。工場の機械を動かすエネルギーコストも上昇傾向にある。人件費や配送費も上がっている。コスト増に対して、消費者離れを気にして値上げができないと、利益を削って営業しなければならず、持続可能ではない。 実際、帝国データバンクの調べによれば、2024年1~7月に負債1000万円以上で倒産した豆腐メーカーは36件となり、過去最多のペースとなっている。 豆腐メーカーは、互いに似通った商品を売っているため、消耗戦を強いられてきた。製造設備の性能が高い大手がより安いコストで量産するため、中小は赤字覚悟でスーパーの棚を確保する交渉をせざるを得ない。 このような不毛な我慢比べを脱して、従来になかった異次元の付加価値を備えた商品を開発して、新しい市場を開拓するメーカーが出てきた。“豆腐革命”が進行している状況と言える。 豆腐を手軽なプロテイン食品に変身させた「豆腐バー」のアサヒコ(東京都新宿区)、豆腐の思いも寄らない可能性を知らしめた「ビヨンド豆腐」の相模屋食料(前橋市)、外食からの新提案でSDGsを実践する「豆富食堂」(東京都渋谷区)の事例を紹介する。
ヒットメーカーが手掛けた「豆腐バー」
新発想、スティック状の豆腐である豆腐バーをヒットさせたのは、アサヒコという豆腐メーカーだ。 創業して間もない1972年、埼玉県行田市に業界初の「衛生的で均一な品質の豆腐」を量産する工場を新設しており、革新的な気風のある会社。2016年までの社名は朝日食品工業だった。 開発したのは、2023年5月より同社の代表取締役を務める池田未央氏。約20年間にわたり、菓子メーカーを3回転職してヒット商品を手掛け、あらゆる分野、チャネルの商品開発に携わってきた。正直、菓子はやり切った感があった。 新分野でのチャレンジとして、2018年にマーケティング本部長として同社に転職した池田氏は、米国に出張した時、非常に硬い豆腐が売られていて、肉や魚の代わりに食べられていることに気づいた。そこで、豆腐の定義を、植物性のタンパク源と変えることで、新しい発想の商品がつくれないかと、ひらめいた。 大豆の値段が上がったといっても、肉や魚と比べればまだまだ価格競争力がある。単純に80円の豆腐を改良して100円で売るのでなく、競争のステージを転換した。 「豆腐バーは、通常の豆腐に比べてグラム単価が約8倍以上に跳ね上がっている。豆腐という伝統ある食べ物の価値を、問い直す提案を行ったつもり」と、池田氏は豆腐バーにかける想いを語った。 豆腐バーの発売は、2020年11月。東京五輪は残念ながらコロナ禍で1年延期されたが、当初はそれを目標に開発してきた。日本はビーガン食品が発達していないので、海外からの観光客の急増が見込まれる、五輪をチャンスと見たためだ。 また、今はサラダチキンを買っているような、健康志向が強くタンパク質が効率的に取れる食品のユーザーに、豆腐は刺さると考えた。 五輪は無観客となり、当初見込んだ外国人は来なかった。しかし、日本人がステイホームで運動不足になって、コロナ太りが増えてきた。なんとか痩せたいと思っていた人たちが、豆腐バーに注目。発売して1年で、約1000万本を販売する大ヒットとなった。 技術的には木綿豆腐をつくるのとプロセスは同じだが、より多く水分を絞り出して硬くする。しかし、豆腐が固まってから水分を抜くのでは上手くつくれない。豆乳ににがりを加える段階で、水分が排出しやすいように、タンパク質の濃度やにがりの種類・量・加え方を工夫し、製法を確立した。