「YOLU」の爆発的ヒットを支える I-ne の革新戦略。計算されたブランドマネジメントの徹底がスケールへとつながる
「YOLU(ヨル)」が爆速で売れている。発売から約1年で*累計販売数1000万個を突破した、睡眠中の髪ダメージに着目したナイトケアビューティーブランドだ。累計1億6000万本を売り上げている「BOTANIST(ボタニスト)」(同社)の再来と言われ、2023年のドラッグストア市場では売り上げ1位を獲得。 *「YOLU」全カテゴリーの累計販売数(2021年8月~2022年9月30日) 「YOLU」の爆発的ヒットを支える I-ne の革新戦略。計算されたブランドマネジメントの徹底がスケールへとつながる 日本でもっとも売れたヘアケアブランドということになる。爆発的ヒットを生み出した背景には、メーカーであるI-ne(アイエヌイー)のセオリーがあった。 企業の成長につながった施策や事業を切り口に、そこに秘めたマーケターの想いや思考を追っていくDIGIDAY[日本版]のインタビューシリーズ「look inside!─マーケターの思考をのぞく─」。今回は、I-neのビューティーケア事業本部の本部長に就任した大菅研登氏に「夜間美容市場」を生み出した戦略を聞いた。 ◆ ◆ ◆
2つのマーケティング戦略
DIGIDAY編集部(以下、DD):ヘアケア市場において「YOLU」が話題を席巻していますね。ヒットの要因をどのように分析されていますか? 大菅研登(以下、大菅):まず、マーケティング戦略でいうと2点あります。ひとつは当たり前なのですがプランニングの基本原則を守ること。2つめは「トレードマーケティング」です。 プランニングでは誰に、何を、どう伝えるかに加えて、「誰が」伝えるかも重要です。「YOLU」は社内のアイデアコンテストから生まれた商品で、開発当初からブランドパーパスが明確でした。 多忙で睡眠不足の女性が「寝ているあいだにキレイをつくる」というコンセプトは多くの共感を呼び、「YOLU」が提唱する「夜間美容」は瞬く間に支持をいただきました。「誰に=忙しい女性」「何を=夜間美容」という部分はクリアしていたので、注力したのは「誰が」「どのように」の部分です。 当社ではイノベーター理論をベースとした、独自の美容マーケティング理論を採用しています。トレンドを生む「イノベーター(美容開拓層)」いわゆるアーリーアダプターと、トレンドを掴み、拡げる「美容フォロワー層」にトライアルしてもらう仕組みをつくり、各SNSでUGCも続々と生まれました。 DD:確かに、SNSで「YOLU」に関する投稿をよく見かけました。 大菅:「○○のドラッグストアで売っている」「成分が優秀で即買いした」「バラエティショップで見つけた」といったものが広く拡散され、ブランド認知からオフラインでのリマインド効果、購買に大きく寄与したと思います。 大菅 研登/株式会社Iーne ビューティーケア事業本部 本部長。2017年I-neに入社。営業部のマネージャーを務めたあと、営業戦略部にてトレードマーケターとして「BOTANIST」「YOLU」の流通戦略を立案・実行し、オフライン流通の売上最大化に導いた。2024年ビューティーケア事業本部 本部長に就任し、ブランディング、マーケティングなどを含む8部門を統括。プライベートでは大阪にある「天ぷらとワイン」のお店で昼飲みにハマっている。「終わりのない感じが好きだ」と昼飲みに対するコメントを残している。 DD:2つめのトレードマーケティングとは、どのような取り組みだったのでしょうか。 大菅:一般的なマーケティングは生活者視点でどう設計するかというものですが、トレードマーケティングはバイヤー視点の流通戦略。競合がひしめくなか、KPIは配荷の最大化と、店頭をどう占有するかという点です。 客数を伸ばしたい、若年層を獲得したいといった小売店の悩みを解決する提案がより効果的で、OMOが非常に重要。当社でリーチできるデジタル基盤の顧客数は3400万人を超えていますが、このデジタルの客基盤を起点にオフラインでの流通量最大化につなげていくイメージです。 一般的なブランディングの考え方にメンタルアベイラビリティ(ブランドを想起させる力)とフィジカルアベイラビリティ(商品が手に入りやすい状態)がありますが、「YOLU」のトレードマーケティングで重視するフィジカルアベイラビリティはオフラインを最大化するため流通の選定とインフルエンサーを使ったプロモーションの仕掛け。 先ほどご紹介した「○○で売っている」というのもひとつです。そして需要予測などのデータ分析を細かく行ったことで流通戦略が成功したと言えます。