「YOLU」の爆発的ヒットを支える I-ne の革新戦略。計算されたブランドマネジメントの徹底がスケールへとつながる
成功の秘訣は独自の「IPTOSモデル」
DD:「BOTANIST」の誕生以降、ヘアケア市場の構造が高価格帯主流に変化したように思います。ある意味、「YOLU」はレッドオーシャンでの戦いだったのではないでしょうか。 大菅:確かに、ドラッグストアで1500円前後の高価格帯シャンプーがメインで売れるようになったのは、生活者のニーズが変わったからとも言えます。家族で使うシャンプーから、自分だけのシャンプーですね。「BOTANIST」以降、そういったコンセプトの商品は増えました。だからこそ、新ブランドのローンチには絶妙なコンセプトメイキングが重要になります。 I-neには「アート」「クラフト」「サイエンス」というマーケティング哲学があります。アートは感性。つまり企業文化に基づく意思決定。サイエンスは数字に基づいた分析や改善。クラフトは質の高いものづくりです。「YOLU」は「半歩先のコンセプト=夜間美容」がヒットにつながりました。夜間美容に決定したことこそがアートにあたります。 DD:夜間美容以外にはどのような候補があったのですか? 大菅:健康な髪を保つ「高濃度ビタミンシャンプー」、絹のような仕上がりを目指す「シルキーシャンプー」と「夜間美容」の3つに絞られました。そこで生活者に購入意向調査を実施したところ、夜間美容は2位でした。 尖り過ぎたコンセプトはイノベーターだけで終わってしまうことがよくあります。「美容フォロワー層」までもっていくには、半歩先のトレンドを読むことが重要。その絶妙なバランスを経営層やブランドチームが判断できるというところがアートなのです。 DD:こうして生まれたコンセプトを、どのように実際に売れるブランドへと昇華させるのでしょうか? 大菅:ヒットへと導くのは、当社独自のブランドマネジメントシステム「IPTOS(イプトス)モデル」です。商品企画から販売拡大までを「Idea(着想)」「Plan(企画)」「Test(検証)」「Online/Offline(ECローンチ/一部小売)」「Scale(本格展開)」の5段階で捉え、各フェーズごとにKPIを設定し、ブランド育成・管理を仕組み化したものになります。 特にPlan段階では独自の数理モデルを用いて目標シェアやパッケージデザイン、配荷店舗数、プロモーションなどのプランを検証しています。このモデルはPOS売上とKPIの相関から設計した門外不出の「KPIツリー」をつくり、消費財市場を数学を使って再現したもので、「BOTANIST」をはじめ、これまでローンチした全ブランドの数字を何パターンも入力し、磨き上げてきました。数理モデルから導き出す売上予測の精度は94.6%と、相当なものです。