第165回直木賞受賞会見(全文)佐藤究さん「限界までいろんなことを詰め込んだ」
今の心境で聴きたいメタルの曲を教えて
ニコニコ動画:よろしくお願いします。ご受賞おめでとうございます。 佐藤:ありがとうございました。 ニコニコ動画:山周賞に続き恒例の質問なんですけれども、ニコニコ動画はご存じでしょうか。 佐藤:存じています。 ニコニコ動画:ありがとうございます。富山県、30代男性の方の質問です。執筆中にメタルを聴いていたというインタビューを読みました。暴力をエンターテインメントとして、結果としてポジティブに伝える手法を学んだとのことでしたが、今の心境で聴きたいメタルの曲を教えてください。 佐藤:執筆中にもよく聴いていた、べたですけど「エンター・サンドマン」かな。 ニコニコ動画:それはアルバム名でしょうか。 佐藤:「エンター・サンドマン」は、いや、メタリカの『メタリカ』ってアルバムに入っている曲ですね。 ニコニコ動画:ありがとうございます。 司会:ありがとうございました。これにて質疑応答を終わらせていただきます。佐藤さん、質疑応答を終えられましたけれども、何か言い残したこと等ございましたら一言いかがでしょうか。
麻薬戦争を下敷きに
佐藤:そうですね、この作品は暴力っていうのが、先ほどの質問にもあったんですけど、どの程度の、それは文学なのかっていう問い掛け、まさしくそのとおりなんですけど、今回これ、麻薬戦争っていうものを下敷きにしてまして、実際に僕自身がメキシコで起きている麻薬戦争を調べたり、それこそ実際、取材に行った友人の危険地帯ジャーナリストの丸山ゴンザレスくんに話を聞いたりすると、もうここで描いた以上のことが起きているんですよね。 僕自身も今回、初めて、ほかの作品でもバイオレンスのシーンは描いてはきたんですけど、執筆中に初めて夢にうなされる経験をしまして、こんなことしても意味があるのかな、やめようかなとも思ったんですけれども、麻薬戦争、あるいは資本主義、リアリズムっていうシステムの中で、人々から搾取をするためにこういうことが本当に起きているんだっていうのを、これはたとえフィクションという形でも、描くことなしには、もう見ることさえもないので。 やはり知ることは、例えばちょっとした出来心で、麻薬を買ってみようかとかいうことへの、僕は別に教育者でもなんでもないので、体に悪いから駄目ですよって僕らが言ってもしょうがないので、こういう連中がこのシステムの背後にはいて、君の払ったちょっとした好奇心のお金はこういうことに流れているんだよっていうのを知ることができれば、やっぱり抑止力っていうか、社会に対する、こういうクライムノベルを書きながらも、役割になるかなと思ってやりました。 ロベルト・サヴィアーノっていうノンフィクションを書いた、『コカイン ゼロゼロゼロ』っていうノンフィクションですね、本当の麻薬犯罪を追い掛けた彼とかがそういう仕事をずっとして、ボディーガードに警護されながら生活してるんですけども。彼なんかもともとイタリアのナポリの出身で、マフィアのことを批判っていうんですか、書いてしまって、故郷にいられなくなったんですよね。そのあとアメリカにたぶん移って、ボディーガードと一緒に生活しながらやってるんですけど。 年も僕と2つぐらい下かな、僕より下ぐらいなので、やっぱり皆さん、こうやって、メディアの皆さんいらっしゃってますけど、かなりきつい選択ですよね。本当に批判しなければいけないものを批判して。しかしそこでもう家族と離ればなれになって、その代償として故郷にもいられなくなるっていう人たちが、当然ながらこの世界には実際にいるわけで。彼の本を読んだときに、僕が同じ立場だとできるかなっていうのは、自分自身、かなり疑問が、今でもあるんですけど。