EUVより低コストで微細化…キヤノンが半導体装置巻き返し、ナノインプリントで再参入の勝算
キヤノンの次世代半導体製造装置「ナノインプリントリソグラフィ(NIL)装置」が動き出す。同社は26日、NIL装置を発売後初めて納入すると発表し、米テキサス大学オースティン校が支援する半導体研究のコンソーシアム「TIE」向けに出荷を開始した。先端半導体の製造では蘭ASMLの極端紫外線(EUV)露光装置が覇権を握るが、キヤノンはNIL装置をてこに最先端への再参入を狙う。(小林健人) 【写真】キヤノンが出荷するTIE向けNIL装置 今回納入するNIL装置はTIEでの半導体デバイスの試作に使われる予定。キヤノンの光学機器事業本部の岩本和徳副事業本部長は「NILは低価格で半導体を製造でき、試作に向く」と話す。 キヤノンにとってNIL装置は先端半導体分野への再参入をかける「戦略装置」だ。 半導体露光装置では、回路の微細化が進むごとに波長の短い光源を利用する。特に7ナノメートル(ナノは10億分の1)以下の先端半導体ではEUV露光装置が不可欠だ。一方、光源の波長が短くなるほど、物質に吸収されやすくなる。EUV露光装置は光源の出力を高めることで半導体製造に使えるようにした。 ただ、EUV露光装置の製造は難しい。ニコンとキヤノンは厳しい開発競争に敗れ、両社ともに撤退した過去がある。現在はASMLが世界で唯一製造する。 10数年ぶりに最先端露光装置への参入を目指すキヤノンは、従来の光を転写する露光装置ではなく、はんこを押すように回路を形成できるNIL装置の開発を進めてきた。同装置は従来に比べ簡便な方法で微細な回路を形成できるメリットがある。 キヤノンは14年に米モレキュラーインプリントを買収し、開発を本格化。キオクシアに同装置を納入。キヤノン、キオクシア、大日本印刷の3社で共同開発を続け、23年に発売した。実用化まで約10年を投じてきた。 普及のカギは量産ラインへの適用を進められるかだ。岩本副事業本部長は「EUVはコストが高く、いかに利用回数を抑えられるかが半導体メーカーの課題」と指摘し、「低コストで微細化できるメリットが生かせる適用レイヤー(層)で利用を広げる」とする。また、フォトマスクなどのサプライチェーン(供給網)の構築を進め「3―5年後には年間十数台の販売を目指す」(岩本副事業本部長)。キヤノンの最先端半導体露光装置への返り咲きの火ぶたは切られた。