恐竜王国・福井の最新研究事情【後編】幅広いキャリアパスと科学の窓口に~新学部誕生に込めた真の狙い(福井県立大学・今井拓哉さん)
また、そうした自分の推論を理路整然と述べるには、文系的な思考も必要になります。そのために例えば本を読むなどして、表現力や読解力を磨くことも大切でしょう。恐竜研究は世界中の研究者と寝食をともにするので、歴史や宗教、地政学などにも明るい方が良いですね。自分の経験上、音楽の得意不得意だけはあまり関係がありませんでした。
それから、恐竜研究は異業種の方とのやり取りが非常に多いので、コミュニケーション力も大切ですね。復元画が欲しいときはイラストレーターさんにお願いしなければなりませんし、発掘作業も土木業者さんの協力がないと成り立ちません。そうした方々と良好な関係を築く力も求められます。あとは体力が絶対に必要です! 発掘は主に夏場の炎天下で行われるので。
年間100万人を楽しませるレアな科学
―最後に恐竜や恐竜研究の魅力・価値を教えてください。
恐竜は謎の多い生き物です。新種の発見に限らず、これまで誰も知らなかったことを明らかにし、人前で発表できたときはものすごい達成感があります。
恐竜研究は直接的に人を健康にしたり、暮らしを便利にしたりすることはできません。しかしそんな恐竜研究の成果を見るために、恐竜博物館には毎年100万人近い人々が訪れてくれます。100万人を楽しませる科学の分野は、他にそう多くはありません。科学に触れる「窓口」として、恐竜や化石はベストな選択肢の1つと言えるのではないでしょうか。
つまり恐竜は、科学が発展する足掛かりとなる存在だと信じています。研究成果を伝えることで、私もそれに貢献していきたいですね。
関本一樹 / サイエンスポータル編集部
プロフィール
今井拓哉(いまい・たくや) 福井県立大学恐竜学研究所・准教授/福井県立恐竜博物館・研究職員/地球科学可視化技術研究所 恐竜技術研究ラボ・客員研究員/恐竜総研・技術部長 1987年東京都生まれ。モンタナ州立大学理学部にて学士課程・修士課程を終えたのち帰国し、2019年金沢大学大学院自然科学研究科博士課程を修了。博士(理学)。2015年、福井県立恐竜博物館研究職員。2019年より現職。専門は恐竜の繁殖学や恐竜時代の鳥類学で、特に国内における前期白亜紀の陸上の地層に注目して研究を行っている。近年では民間企業と連携し、バーチャル技術を活用した新時代の地学教育にも取り組んでいる。