コロナで「帰還延期も頭をよぎった」JAXA宇宙研所長が振り返る
新型コロナウイルスの世界規模での感染拡大は、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の小惑星探査機「はやぶさ2」の地球帰還ミッションにも影響を与える可能性があった――。 【動画】「はやぶさ2」カプセル到着 JAXA会見「物質分析フェーズに入る」 6年にわたる52億キロの小惑星「リュウグウ」探査の旅を終え、はやぶさ2から分離されたカプセルがオーストラリア南部の砂漠地帯に着地し、相模原市のJAXA施設に届けられたことを受けて開かれた8日の記者会見の場で、JAXA宇宙科学研究所の國中均所長は、今回の地球帰還の時期を「延期することも頭によぎった」と明かした。
津田プロマネ、軌道変更を一時「検討」
宇宙研所長としての所感として切り出した國中氏は、3月から4月にかけて日本でコロナ第1波の感染が広がり、政府の「緊急事態宣言」発出に至った状況や、その時点で豪州政府から着陸許可が出ていなかったことから「このままカプセル回収ができるのか、困った状況に追い込まれた」と振り返った。さらに感染状況が悪化すれば「豪州の国境を固く閉ざされる可能性があった」。 欧米諸国を中心とする世界的な感染拡大で、空路の定期便が安定に運用されているかも見通せない状態だったため「はやぶさ2の軌道を調整して12月の帰還を延期することも頭をよぎったのは事実」と打ち明けた。 しかし「ここはJAXAの自律的なカプセル回収という本来業務に引き戻すべきだ」と思い至り、チャーター機を確保してスタッフ移動を図るなど「万難を排して豪州に乗り込む」姿勢を示すことで「豪州政府も我々の意気込みを感じ、着陸許可の獲得も加速するであろう」と考えたという。
はやぶさ2の津田雄一プロジェクトマネージャーも「軌道力学的に飛行計画変更は可能だった」と、コロナの影響で技術的・物理的に、はやぶさ2の軌道変更が可能かを一時検討したことを明かした。 津田氏の説明によると、引力を利用して軌道変更する「スイングバイ」を地球にもう1回帰ってくるように実施する方法だった。ただカプセルが着地する場所がオーストラリアになるか、さらに今回準備を進めてきたウーメラに着陸できるか「いろんな課題があった」。さらにコロナの状況も含め「1、2年後にどうなるかという不確定性もあった」。 そこで、國中所長含めた宇宙研やJAXAと議論して「予定通り地球に帰したい」という結論になったという。結果としては、豪州政府からの着陸許可も下り、コロナ禍でも12月帰還という計画を変更することなく、無事カプセルを日本に持ち帰ることに成功した。 人工クレーターの生成や小惑星内の違う地点へのタッチダウン(着地)など数々の「世界初」の偉業を成し遂げ、地球への帰途に就いたはやぶさ2。「完璧なミッションだった」(宇宙研・久保田孝研究総主幹)と称される今回のミッションの最後に襲いかかったのは、技術的な故障や宇宙特有のトラブルではなく、地球で静かに広がったウイルスの脅威だったが、JAXA研究者らの強い意志と確かな技術力で克服した格好だ。