「毒」が裏返る”逆転の発想”!…「有害」なステータスが「最良」のシグナルになる衝撃の理由とは
人種差別、経済格差、ジェンダーの不平等、不適切な発言への社会的制裁…。 世界ではいま、モラルに関する論争が過熱している。「遠い国のかわいそうな人たち」には限りなく優しいのに、ちょっと目立つ身近な他者は徹底的に叩き、モラルに反する著名人を厳しく罰する私たち。 【漫画】「しすぎたらバカになるぞ…」母の再婚相手から性的虐待を受けた女性が絶句 この分断が進む世界で、私たちはどのように「正しさ」と向き合うべきか? オランダ・ユトレヒト大学准教授であるハンノ・ザウアーが、歴史、進化生物学、統計学などのエビデンスを交えながら「善と悪」の本質をあぶりだす話題作『MORAL 善悪と道徳の人類史』(長谷川圭訳)が、日本でも刊行される。同書より、内容を一部抜粋・再編集してお届けする。 『MORAL 善悪と道徳の人類史』 連載第27回 『「ニセモノ」の存在が「本物」の“善人”を駆逐する…人間だけが「読心術」を獲得できたおぞましすぎる理由』より続く
最良のシグナルとは
幸いなことに、ニセのシグナルという問題を回避するのに、緑色の髭は必要ない。偽装が不可能になるほど、あるいは偽装すると大損が出るほど、本物を“高くつく”シグナルにすればいい。イスラエル人進化生物学者アモツ・ザハヴィの「ハンディキャップ理論」に従えば、最良のシグナルとは、それの所有は所有者にとって害となるシグナルだ。 この考え方は、有害であるにもかかわらずそのシグナルを示すシグナル所有者は、その害をものともしないほど高い能力を有していることを意味する、という逆転の発想から来ている。 派手で立派な羽をもつクジャクは、力強くて生存能力が高いということだ。でなければ、大きな羽がじゃまな障害になってしまう。贅沢な羽は犠牲を伴い、「偽装」できない。なぜなら、遺伝的にそれほど強靱でない個体は、そのようなシグナルを担えるだけの身体能力が備わっていないからだ。 いくつかの宗教的慣行も、その宗教の外では理解されず高くつくため、集団内での協力姿勢を示す信頼性の高いシグナルとなる。特に一神教の宗教は、どれほどグロテスクな教義や不合理な思想への献身を信者に強いられるかの競争をしているかのようだ。 ほとんどの宗教のほとんどの教義は、合理的判断をする人なら信じないであろう明らかな“嘘”でできている。では、どうして人々はそのような話を受け入れるどころか、人前で話したりするのだろうか?ハンディキャップシグナルの考え方からすれば、宗教の信条は奇妙であるからこそ、役に立つのだ。精神的に混乱していると人前で告白できる者だけが、“真の”信者として認められるのである。