はやぶさ2、ヤマ場の小惑星「着地」は困難なミッション
初の着地リハーサルが始まる
はやぶさ2は2019年12月頃にリュウグウを離れるまでの間に少なくとも3回の着地を実施する予定になっています。1回目の着地とサンプル採取は10月下旬に予定されています。ただし、この予定通り、実施されるかどうかは、まだ不透明です。運用チームでは、これからさらに情報収集や運用技術の高度化を進めていき、いつ着地をおこなうのかを決定していきます。 その大きな鍵を握るのが、着地リハーサルです。1回目の着地リハーサルは9月11日から12日にかけて実施されています。このリハーサルでは、はやぶさ2の高度をリュウグウの上空30メートルくらいにまで下げて、着地候補地の詳しい形状などを調べます。同時に、近距離用の測距装置であるLRF(レーザー・レンジ・ファインダー)での測定もおこないます。 LRFは、高度30メートル以下で、リュウグウの地表との距離を計測するための装置で、今回の着地リハーサルで正常に動くか確かめます。リハーサルでは、高度30メートルあたりで再び上昇しますが、着地本番では、高度30メートル以下になると、はやぶさ2は地上からの指令を受けずに、自律して着地からサンプル収集までをおこないます。この高さになると、地球とやり取りする時間がなくなってしまいます。突発的な出来事が起こったときに、はやぶさ2自身が自律的に対応するしくみにすることで、より安全性を高めているのです。LRFでの測定は、自動運転中のはやぶさ2が正常に動いているか見極めるための重要な情報となるので、しっかり作動するか確かめていきます。
重要な試金石となるリハーサル
1回目のリハーサルが無事に終わると、9月21日に小型ローバー「MINERVA(ミネルバ)-II-1」のローバー1と2の投下、10月3日に小型着陸機「MASCOT(マスコット)」の投下が相次いでおこなわれます。さらに、10月中旬に2回目の着地リハーサルを経て、10月下旬にいよいよ1回目の着地とサンプル採取が実施されることになります。 今回の着地リハーサルは、リュウグウの表面の状況を調べる情報収集や、より洗練された着陸技術の取得も兼ねています。状況によっては、リハーサルを中断し、さらなる情報収集や分析を進める可能性もあります。そうなると、予定されていたスケジュールは大きく見直されることでしょう。今後のはやぶさ2の運用を占う意味でも、重要なイベントとなります。 はやぶさ2の目的とは、小惑星リュウグウのかけら(サンプル)を地球に持ち帰ること。私たちのいる太陽系は、約46億年前に誕生したといわれていますが、そのくわしい様子は未だによくわかっていません。 太陽系の惑星は、太陽の周りに集まった塵やガスなどから小さな微惑星ができ、その微惑星が衝突、合体を繰り返し、より大きな小惑星や惑星へと成長していったと考えられています。地球のような惑星は、たくさんの衝突が起きたために、太陽系が誕生した直後の物質は残っていません。 しかし、衝突の少ないまま現在の姿になった小惑星には、初期の太陽系の情報が残っている可能性があります。そこで、小惑星の岩石を地球まで持ち帰り、詳しく分析することで、初期の太陽系の様子を知ろうと考えたのです。 リュウグウは、有機物がたくさん含まれると考えられている「C型小惑星」です。このタイプの小惑星を分析することで、太陽系の起源だけでなく、生命の起源にも迫れると期待されています。 ◇ 9月11日から12日にかけて、1回目のタッチダウン(着地)リハーサルを行っていた「はやぶさ2」は、高度約600メートルで降下を中止しました。理由は、レーザ高度計(LIDAR)で、はやぶさ2とリュウグウの間の距離が計測できなかったからだとみられます。リュウグウは全体的に黒い天体で、反射率が低いことが影響しているようです。運用チームは13日以降、降下手順の再検討を行う予定です。(2018年9月12日午後7時23分追記)
------------------------------------ ■荒舩良孝(あらふね・よしたか) 1973年生まれ。科学ライター。「科学をわかりやすく伝える」をテーマに、宇宙論、宇宙開発をはじめ、幅広い分野で取材、執筆活動をおこなっている。主な著書は、『ニュートリノってナンダ?』(誠文堂新光社)、『5つの謎からわかる宇宙』(平凡社)、『まんがでわかる超ひも理論』(SBクリエイティブ)など