はやぶさ2、ヤマ場の小惑星「着地」は困難なミッション
満遍なく岩塊が分布する危険な表面
さらに、運用チームを驚かせたのが、岩塊(ボルダー)の多さです。リュウグウの表面には、直径130メートルほどの大きなものから、数メートルほどの小さなものまで、無数の岩塊が満遍なく、分布していることがわかってきました。岩塊は、はやぶさ2の着地(タッチダウン)に大きな障害となります。 表面に岩塊がたくさんあるという状況は、初代はやぶさが探査した小惑星イトカワとあまり変わりません。ただ、イトカワの場合は、岩塊がほとんどない場所があったために、そこを着地点としました。ところが、リュウグウの場合は、どの場所も同じように岩塊が分布していたのです。 はやぶさ2のミッションは、初代と同様、小惑星からサンプルとなる物質を持ち帰ることです。詳細は後述しますが、その目的を達成するには、小惑星への着地は必要不可欠ですが、同時に最大のリスクでもあります。小惑星の表面に岩塊があると、着地したときにぶつかって、機体が傷ついてしまう可能性があるからです。 はやぶさ2の場合、着地のときに地面に触れるのは、機体の下に伸びている筒状のサンプラーホーンの先端だけです。サンプラーホーンがリュウグウの地面に触れると、そこから小さな弾丸が飛び出します。衝撃によって飛び散った破片をカプセルに収納し、すぐに飛び立ちます。 サンプラーホーンの長さは約1メートルです。直径50センチまでであれば岩塊があっても、機体に触れることはありませんが、それ以上の岩塊がある場所では、何かの拍子で機体が傾いてしまうと、機体に触れてしまう危険性があります。
安全重視で選定された着地候補点
運用チームはこれまでの探査結果をもとに、はやぶさ2がより安全に降り立つことができる場所を探し、着地点の候補をバックアップも含めて3つ選定しました。はやぶさ2が着地できるのは、リュウグウの赤道を中心にして、南北にそれぞれ200メートルほど離れた場所までです。それ以上ずれてしまうと、機体と太陽の角度がずれてしまい、十分な電力が得られない危険性があります。その領域の中で、岩塊が少なく、平坦な場所はほとんどありません。 運用チームは、当初、安全面を考えて、複数の着地候補地を挙げ、それぞれの候補について、科学的な観点から検討を加え、最終的な着地点を決定しようと考えていました。しかし、実際は、はやぶさ2が安全に着地できそうな場所がほとんどないことが分かってきて、安全面での検討だけで、着地候補地が絞られてしまったのです。 それでは、科学的な発見は期待できないのでしょうか。いえ、そうではありません。リュウグウの表面を観測してみると、場所による物質の偏りがあまりないことが分かってきました。 リュウグウの表面を構成する物質は、ほぼすべての場所で同じように混ざり合っているので、どの場所の物質を採取しても、リュウグウの特徴をとらえることができます。つまり、安全性を優先させても、科学的には問題ないという結論となっているのです。