熊本の廃校が「世界最先端のビジネススクール」に 異色スタートアップの、故郷への思いと緻密な戦略
“MBAの民主化”と徹底的なローコスト経営
「そもそも、利用客が来る見込みはあったのか」と問うと「施設利用者がいなくても成立する仕組みを最初から作ろうと考えていました」と中原氏は冷静に答えた。 その中核となるのが、月額9900円から始まる会員制コミュニティー「bY」(ビーワイ)だ。コワーキングスペースやラウンジの利用権に加え、オンラインで世界水準の経営学を学べるという異色のサービスだ。中原氏自身のハーバードMBAでの学びを、より手軽な形で提供する。 「海外のMBA取得には、2年間で最大32万ドル、およそ5000万円近くの費用が必要です」(中原氏)。そんな高額な教育機会を、月額1万円程度で提供する“MBAの民主化”に挑戦するというわけだ。「150人の会員がいれば、施設は維持できます」と言い切る中原氏。現在の会員数は30人ほどだが、法人会員の開拓も始まり、着実に手応えを感じているという。 施設運営面でも徹底的なローコスト化を図る。24時間365日の利用を可能にするスマートロックを導入し、常駐スタッフを置かない仕組みを構築した。必要最小限のスタッフは、「特定地域づくり事業協同組合」制度を活用した「YAMAGA BASE事業協同組合」から派遣する。U・I・Jターンの若者を雇用し、温泉施設やワイナリーなど地域の他施設にも派遣することで、人件費の平準化も実現している。
開業8カ月で来場2万人見込み 想定外の広がり見せる利用実態
2024年4月のオープンから約8カ月が経過するなか、YAMAGA BASEの来場者数は年間2万人を見込むペースで推移している。「積極的な営業活動はできていないが、口コミで広がり、多様なユースケースが生まれている」と中原氏は手応えを語る。 宿泊を伴う利用は年間2000人を見込み、週末の予約は2025年2、3月までほぼ埋まっている状態だ。サッカーのユースクラブチームの合宿や、企業の異業種交流会、全国各地から集まる農業関係者の交流会など、当初想定していなかった使われ方もされているようだ。 この多様な利用形態は、YAMAGA BASEが掲げる「iReaction」という理念に通じる。Innovation(革新)、Recreation(余暇)、Education(教育)、Association(協働)、Communication(交流)の頭文字を組み合わせたこの造語には、「刺激を受けて変化する」という意味も込められている。 実際、byコミュニティーでの知見共有、農業振興の取り組み、中高生の職場体験、企業間交流会など、理念に沿った活動は多岐にわたる。派遣される運営側のスタッフも、臨床検査技師や高校教師、元警察官など多様なバックグラウンドを持つ20~30代の若者が移住して加わり、理念を体現している。「この場所から新しい価値が生まれていくのを実感している」と中原氏は語る