政策より共感、すぐ投票へ──ショート動画が選挙の鍵を握るか 識者が語るSNSと選挙 #SNSの功罪
感動型BGMでふわっと心地よい感覚
そんなSNSと選挙の関係で、今年新たな潮流になったのがTikTokです。ショート動画をアルゴリズムで配信するTikTokはそれまでのTwitterやYouTubeの流れと違うカラーがあります。 たとえばその動画の印象。政治家の動画でも、TikTokでは人を感動させるようなBGMや言葉がうまく配されている。言動は何かいいことを言っているような切り取られ方で、かつ、ふわっと心地よい感覚で構成されている。そんな動画が多い。 しかも、それらの動画の多くは、作り手が政治家本人ではなく、第三者の「切り抜き職人」たちによって作られている。たとえば都知事選に出た石丸氏が出ている元の動画が2時間くらいあったとして、それを素材に、切り抜き職人が数十秒のショート動画を何本も仕立てていく。 切り抜き職人にとって、切り抜き動画の制作は収益源であると同時に、BGMをつけたり、演出ができたりするクリエイティブな作品でもある。その政治家の動画の再生回数が多い、受けるとわかると、また同じ政治家のショート動画を作っていく。動画が再生されれば職人も収益で儲かる。そういう生態系ができているわけです。
都知事選のとき、TikTokで1万回以上再生された石丸氏のショート動画を分析してみました。すると、BGMは工夫されていて、ピアノなどの感動型のほか、緊迫型、勇猛型、ゲーム型などさまざまなものがあった。BGMの違いだけでも、印象がすごく変わる。
ショート動画はTikTokのほか、YouTubeショート、Instagram、Xなど他のプラットフォームにも流せます。つまり、政治の世界では、SNSの活用が進む中、目下ショート動画が主流になり、票の行方を左右するようになってきた。ショート動画ポリティクスと言えるかもしれません。
ドイツでも極右政党躍進の背景にTikTok
ショート動画と選挙の関係は日本だけに特化したことではなく、世界でも似た現象が起きています。今年9月1日、ドイツ東部の2州で州議会選挙があったのですが、そこで極右政党AfD(ドイツのための選択肢)が第一党になるなど、大きく躍進しました。その要因の一つとして指摘されていたのがTikTokのショート動画でした。 ドイツメディア「DW」によると、独ポツダム大学のある研究者が架空の若者のプロファイルをいくつかTikTokに設定し、選挙前の数週間に表示された動画を分析したところ、中道右派や左派の政党のものに比べ、AfD関連ははるかに多く表示されていたとのこと。その内容は政治的なものに限らず、感動型の動画や、旅行や料理に関するものもあったそうです。