高2の息子はいじめで命を絶った…「もう犠牲者を出したくない」と願った両親が直面した"私立という壁"
2017年、長崎県の私立高校に通う男子生徒が自ら命を絶った。遺書などからいじめの存在を知った両親は再発防止を訴えるも、学校はいじめ自殺であることを認めない。このような状況で、両親はどうしたのか。当時、現地で取材し、『いじめの聖域』(文藝春秋)を上梓したジャーナリストの石川陽一さんに話を聞いた――。(聞き手・構成=ノンフィクションライター・三宅玲子) 【写真】ジャーナリストの石川陽一さん ■絶望する子ども、もがき苦しむ遺族 「小中高生の自殺率、高止まり」 2023年の自殺者数を時事通信(2024年10月29日)はこう報じた。 10月末に公表された2024年版自殺白書によると、自殺者総数は2万1837人(前年比44人減)。総数は減少傾向にある一方、小中高生の自殺者数は過去最多となった前年(514人)と同水準の513人と高止まりしたというのだ(内訳は、高校生347人、中学生153人、小学生13人)。 自ら命を絶った本人の孤独と絶望はいたましいばかりだ。そして、遺された家族の苦しみもはかりしれない。遺族は子の悩みに気づくことのできなかった自責を抱えながら、せめて自殺にいたった理由を知りたいともがく。 『いじめの聖域 キリスト教学校の闇に挑んだ両親の全記録』(文藝春秋)は、自殺した息子に何があったのかを明らかにするべく遺族が学校や行政と対峙した過程に並走したノンフィクションだ。著者はジャーナリストの石川陽一さん。共同通信長崎支局に勤務していた2019年にこの事件と出会った。 ■三者委の報告書が拒否される異例の事態 事件は2017年4月に起きた。その日、長崎市の私立海星高校に通う男子生徒が一晩中帰宅せず、翌早朝、自宅近くの公園で桜の若木の枝にロープをかけて首を吊っている姿が発見された。遺書や手記により、複数の生徒からからかいやいじめを受けていたことがわかった。 事実を知りたいと望む遺族の要望を受けて、学校側は外部有識者による第三者調査委員会(以下、三者委)を設置した。しかし、いじめの事実があったと結論づけた検証報告書に対し、学校は不服を表明。検証報告書の受け入れを拒否するという前代未聞の事態に陥った。 『いじめの聖域』の2022年11月の公刊から2年を迎えた。その間に、いじめ件数は約73万件、不登校の子どもの数は34万6482人といずれも過去最多を記録(2023年度、文部科学省公表)。子どもの心の安全をめぐる状況は悪化している。 本稿では事件を徹底取材した石川さんに、私立学校の閉鎖性を許してしまっている制度の欠陥、地方におけるメディアの機能不全、そして、私たちにできることについて話を聞いた。