百年の埃を払うと、みずみずしい果実のような詩の言葉が蘇ってくる―高柳 聡子『埃だらけのすももを売ればよい ロシア銀の時代の女性詩人たち』沼野 充義による書評
ロシアでは、十九世紀末から二十世紀初頭を特に「銀の時代」と呼ぶ。優れた文学者や芸術家が続々と現れたからだ。この時期には、女性たちも、目覚ましい活躍をするようになった。詩の世界では、若い女性たちが次々に声を上げ、新たな詩の時代の息吹を担うようになった。 本書はその「銀の時代」の女性詩人たちから十五名を選び出し、詩の一部を翻訳して紹介しながら、それぞれの詩人のプロフィールを簡潔ながらも豊かに描き出したものだ。著者は温かい共感によって女性詩人たちを照らし出し、魅力的な姿を浮かび上がらせる。 「私は最後の呼吸のときも詩人でいることだろう!」と絶叫したツヴェターエワや、戦争や粛清といった国家の大事に翻弄されて生き延びたアフマートワのような著名な詩人の他、女の体の痛みを大胆に表現したシカプスカヤ、民主化を求める社会活動に参加しながら「夜明けまえの歌」を歌ったガーリナ、初めてレズビアンであることを公言したパルノークなど。百年の埃(ほこり)を払うと、みずみずしい果実のような詩の言葉が蘇ってくる。 [書き手] 沼野 充義 1954年東京生まれ。東京大学卒、ハーバード大学スラヴ語学文学科に学ぶ。2020年7月現在、名古屋外国語大副学長。2002年、『徹夜の塊 亡命文学論』(作品社)でサントリー学芸賞、2004年、『ユートピア文学論』(作品社)で読売文学賞評論・伝記賞を受賞。著書に『屋根の上のバイリンガル』(白水社)、『ユートピアへの手紙』(河出書房新社)、訳書に『賜物』(河出書房新社)、『ナボコフ全短篇』(共訳、作品社)、スタニスワフ・レム『ソラリス』(国書刊行会)、シンボルスカ『終わりと始まり』(未知谷)など。 [書籍情報]『埃だらけのすももを売ればよい ロシア銀の時代の女性詩人たち』 著者:高柳 聡子 / 出版社:書肆侃侃房 / 発売日:2024年02月28日 / ISBN:4863856040 毎日新聞 2024年3月16日掲載
沼野 充義
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