【年末年始に行きたい美術展】日本のライフスタイルを変えたひとりのデザイナー
日本においては、1982年に西武百貨店と提携した「ハビタ館」が池袋にオープンした。現在50代以降の世代は、ここで始めて北欧の食器やインテリアと出合ったという人も多い。また、ロンドンの「ザ・コンラン・ショップ」の噂は瞬く間に日本にも届き、訪れる機会を得て、帰国後に自慢する人が続出。ファッション業界の人々の間でも家具や調理器具、食器などのブランド名が盛んに話題にされるようになっていった。バブル期に欧米のファッションブランドやフランスワイン、本格的なイタリアン料理などに次々と慣れていった日本人の関心が、ついに衣・食・住の最後、住に向けられたのだ。「ザ・コンラン・ショップ」に寄せる期待がはち切れそうになった1994年、新宿パークタワー内に第1号となる新宿店がオープンした。 当時のいきさつや時代の熱量は、本展の後半、日本国内のさまざまなプロジェクトの関係者へのインタビュー映像からも感じられる。とくに「ザ・コンラン・ショップ」導入の際、日本側の責任者を務めたデザイン・プロデューサー後藤陽次郎氏によるコンラン卿とのやり取りを含めた証言は、時代を動かすエネルギーが感じられる貴重なもの。フードエッセイスト平野紗希子が同インタビューで「日本のインテリア・デザインは、コンラン前とコンラン後に分けられるのではないか」と語ったように、“コンラン前”を知らない世代にとっても、現在にいたる土台に何があるのかを知ることで、今後をいっそう輝かせることができるだろう。約80冊にのぼる書籍がずらりと並ぶ展示も圧巻で、手前に置かれたものは手に取って読むこともできる。 ほかにも、世界に先駆けて1989年に実現させたデザイン・ミュージアムについて、バークシャー州の自邸「バートン・コート」についてなど、コンラン卿の70年近くにおよぶキャリアの全貌を、その活動ごとに約300点以上もの作品と資料で浮かび上がらせる本展。「ザ・コンラン・ショップ」日本上陸30周年を祝福し、未来につなげる充実した展覧会だ。2025年4月19日~6月8日の予定で福岡市美術館に巡回する予定。東京で見逃してしまいそうな方は、来年春に福岡へ! テレンス・コンラン モダン・ブリテンをデザインする 会期:開催中~2025年1月5日(日) 会場:東京ステーションギャラリー 住所:東京都千代田区丸の内1-9-1 BY NAOKO ANDO