性をタブー視せず、大人になるからだを受け止めて――障害のある子どもへの性教育 #性のギモン
性的な発達に「からだが壊れるー」と叫ぶ子も
別の地方にある特別支援学校で、男子生徒が男性器を「きちんと触る」練習を積み上げてきた教員が高樹あかねさん(仮名)だ。 性教育の研修会で「性器を持てない子がいる」と聞き、学校で観察してみると、確かに5年生になってもトイレでおしりを出し、性器には触れない子どもがたくさんいることに気がついた。ある6年生の男子は、おしっこでトイレを毎回汚していた。 「その子はずっと母親から『ちんちんは汚い』って言い聞かせられてきて、触れなくなっていたんです」 男性器をしっかり持てることは排せつの自立、そして「セルフプレジャー」につながる大事な力だ。そこで高樹さんはトイレットペーパーの芯をフェルトで覆い、それをチューブでソース入れとつなぎ、筒状の先端から水を出す、排尿する男性器の模型を手作りした。これを男性教諭に装着してもらい、教室やトイレでお手本を示した。子どもにも模型を手で持って排尿する体験を積んでもらったほか、おしりの模型で便を拭く練習もした。 「発達のゆっくりなお子さんは自分ひとりでトイレができれば十分だ、と大人は思ってしまいがちでした。でも“カッコよく”できているかどうかがすごく大事なんです」
思春期を過ぎてからだが変わっていくことを丁寧に、タブー視することなく教えることが大切だと、高樹さんは実感している。 「いくら性や性器を存在しないかのように遠ざけても、5年生くらいになって成長してくると、性器周辺の感覚が変わってくる。自閉症のあるお子さんの中には『先生、からだが壊れるー』って叫んだ子もいました。そうなる前に、それは大人になる変化だよ、病気じゃないんだよって、分かりやすく繰り返し教えていかなくては」 伝え方にも工夫が必要だ。資料で説明するより、通い慣れた教室で、親しい先生にお手本を見せてもらうほうが子どもたちは理解しやすい。男の子も女の子も輪になって、誰かが模型でおしっこする様子を真面目に、じっと観察した。子どもの年齢や障害の状態によっては、マスターベーションのやり方を個別に教えた。 岡野さんも高樹さんも、子どもと関わる中で、性的な発達や性衝動を肯定的に受け止めることを心がけている。 「小学部でも性器を触りたくなる子はいますが、『おうちでしてね』と言えばやめられます。中学部に上がると性的な衝動が強くて、もやもやしてパニックにつながることも。ある程度の理解力があれば『自分のからだだから、どこの部分を触ってもいいんだよ、でも一人の場所でしようね』と伝えると、すっと落ち着く子どもが多いです」(岡野さん)