性をタブー視せず、大人になるからだを受け止めて――障害のある子どもへの性教育 #性のギモン
子どもの理解に合わせて、手作りの模型で伝える性のしくみ
教育現場での性教育は、池野さんのような教員たちが日々現場で創意工夫を重ね、自主的な勉強会で研鑽を積んでいる。現在、日本の学校教育、特別支援教育では「性教育」の位置づけはない。保健体育や理科の時間で第二次性徴などを教える程度だ。一方、学習指導要領には受精、性交を「取り扱わない」とする“はどめ規定”がある。つまり、性や性行動を肯定的に捉えた性教育を受けられるか否かは“現場の判断”にかかっている。保護者からの切実な要望に突き動かされ、児童生徒の実情に応じて内容を考案し実践を続けてきた、池野さんの先達は全国に点在する。 その一人が、20年近く前から特別支援学校で性教育を教えてきた岡野さえ子さんだ。特別支援学級に通うユキさんたちより障害の程度が重い児童生徒が、小学校から高校の年代まで通う特別支援学校の教員として長年勤めてきた。 岡野さんが小学部の高学年を受け持っていた時、教室で男児が性器を触る、女性に抱きつく、裸になるなどの行為が気になった。それをただ戒めるのではなく、同時に心やからだの変化を肯定的に受け止めてほしいと思った。 そのために、やはり性教育は必要だ。言葉で詳しく教えるよりも、実体験がいいと考えた岡野さんは、子どもたちの理解の度合いを考慮しつつ、射精する男性器の模型を手作りしたり、射精、月経や受精のしくみについて教員が着けたエプロンの上でパーツを動かして説明したりと、工夫を重ねていった。変化に対して不安を抱きがちな子どもたちが多いことから、初潮や精通が来てからあわてるのではなく、その前に実地で準備するよう心がけた。人形を使って、ナプキンを取り換える方法を見せたこともある。その際、「大切なところだから普通は隠してるけど、今日はお勉強だからちょっと見せてもらおうね」と説明してから、人形の服を脱がせ、下着を外した。 「生命の誕生から取り上げていく過程で、性教育といっても結局、自分や周りの人を大事に思う気持ちが基本なんだと、私自身が気づいていきました」