ガチ中華だけではない、中国発ブックカフェとライブハウスが東京に出現した理由
都内に出現する中国発カルチャースポット
さて、中国発のカルチャースポットは書店だけではない。レコードショップなども都内にいくつか出現している。 たとえば、阿佐ヶ谷にある中国インディーズ系のレコードショップ「mogumogu records」(杉並区阿佐谷南1-36-15 マガザン阿佐ヶ谷3階)は、中国から直輸入したロックやフォークなどのレコードやCDが置かれ、夜はライブを行っている。 店主のモグさんは北京でレコード店を経営しながら中国人ミュージシャンの海外公演ツアーを企画してきた人物だという。そんな彼女がいま東京にいるのである。 店のカウンターに置かれた小さなメッセージボードに次のようなことが書かれていた。 〈ぜひmogumoguに出演してください! 東京-北京ミュージックハブmogumogu 出演バンド募集! ロック都市北京からやってきたmogumoguで演奏しませんか? 会場費無料、興行収入50%をアーティストに還元! お気軽にご予約の上、いらしてください〉 高円寺にある中国語圏の同じくインディーズ系レコードショップ「Uptown Records」(杉並区高円寺北3-33-16 かめやビル2階)も面白いスポットだ。 同店のサイトによるこの店の説明はこうだ。 〈高円寺にある実験音楽、Synth、アヴァンギャルド、ポストパンク、中国のアンダーグラウンドの音楽を取り扱う。一号店は2011年に上海で、カリフォルニア出身のSaccoと上海出身のSophiaがオープン。 上海にはレコード屋が少なく、Uptown Recordsはコレクター達が互いに出会う場を提供し、インディペンデントな音楽をプロモーションすることをゴールとして誕生。上海のUptown Recordsも実験音楽から電子音楽、フォーク、パンク、ノイズなど様々なアンダーグラウンドな音楽イベントを開催してきた〉 興味深いのは、この店には中国だけでなく、台湾や香港、東南アジアなど、政治体制を超えて華人ミュージシャンたちの作品が同列に並べられていることだ。筆者にとっても最近の中国語圏のインディーズ系音楽の世界を垣間見ることができたのはうれしかった。 そして、今年の8月15日、六本木に北京の伝説のライブハウス「SCHOOL」の東京店「SCHOOL LIVE BAR TOKYO(以下SCHOOL)」(港区六本木5-16-5インペリアル六本木1号館地下1階)がオープンしている。 その日、北京から来た2組のパンクバンド(柏林護士Berlin Psycho Nursesと法茲FAZI)と日本のインディーズ系バンド「She Her Her Hers」が記念ライブを行った。現地で訪ねたライブハウスの記憶が思い出され、懐かしかった。 会場には多くの観客が集まっていた。客層の大半は、都内在住の育ちのいい中国の留学生や社会人の若者たちと思われ、それは「ガチ中華」のメイン顧客でもある人たちだ。 店内の壁には北京にあるSCHOOLのステージ写真が所狭しと貼られていた。それらの写真の大半が撮影されたと思われる2000年代の北京はパンクが熱く、今日の中国では考えられない自由開放区があったことが思い出された。 六本木でのオープンの3日前、単向街書店で東京のSCHOOL設立に関わった3名によるトークイベントが開催された。その3名とは、北京のSCHOOLを運営している劉非さんと同じく運営者でベーシストの劉昊さん、そして中国初のライブハウス「MAO」を北京に設立した日本の音楽レーベル「バッドニュース」代表の千葉和利さんだった。 彼らは1990年代に始まる中国ロックの黎明期から2000年代になって生まれたライブハウス文化について大いに語り合っていた。 最近の中国由来のカルチャーシーンは「ガチ中華」だけではない。先に述べたが、筆者は以前から北京をはじめ中国各地の芸術区や単向街書店などに代表されるブックカフェをよく訪ねていた。そのようなスポットが東京に続々出現するようになったことに時代の変化を感じている。
中村 正人