イニエスタの今季初ゴール背景にフィンク新監督の戦略
上下のスーツとネクタイをシックな濃紺でそろえたドイツ人指揮官が、喜びで全身を震わせている。敵地の夜空へ勝利の雄叫びをとどろかせ、ガッツポーズを作りながら振り向いた次の瞬間、ヴィッセル神戸のトルステン・フィンク新監督(51)は目の前にいた味方の選手を思いきり抱き上げた。 15日の明治安田生命J1リーグ第15節が終わった直後の、味の素スタジアムにおけるひとコマ。首位を独走するFC東京を1-0で撃破する至福の瞬間を分かち合った相手は、後半4分に芸術的な今シーズン初ゴールを決めたスペインの至宝、MFアンドレス・イニエスタ(35)だった。 「アンドレス・イニエスタ選手がキープレイヤーとなって、ゴールだけでなく、リーダーとしてのクオリティーを見せてくれたことが重要だった。最初は彼が90分間出ることをプランに入れていなかったが、彼が後半アディショナルタイムまでプレーしたことで、彼の強い意思が伝わったと思う」 試合後の公式会見。8日に就任が発表されながら、FC東京戦前日になってようやく就労ビザが降りた関係で、練習を一度も指導せずに指揮を執ったフィンク監督は、半ばぶっつけ本番で白星を手にした要因の多くを、4試合ぶりに戦列へ復帰したキャプテンの存在に帰結させた。 スペインの知将、フアン・マヌエル・リージョ監督(53)を招へいした昨年9月から、ヴィッセルは明確な目標へ向かってチームを作ってきたはずだった。ヴィッセルの三木谷浩史オーナー(54)=楽天株式会社代表取締役会長及び社長=は、リージョ氏の存在を興奮気味にこう語っていたほどだった。 「我々が目指しているポゼッションサッカーに合う、経験値が高くて、インテリジェンスのある監督を探していたなかで、まさかオファーを引き受けてもらえるとは思わなかった」 FCバルセロナに黄金時代をもたらしたジョゼップ・グアルディオラ監督(48)が、リージョ監督を「師」と仰いでいること。そして、バルセロナで一時代を築いた稀代のプレーメイカー、イニエスタが昨夏からプレーすることから、ヴィッセルの挑戦はいつしか「バルセロナ化」と命名された。 しかし、4月14日のサンフレッチェ広島戦で2-4の逆転負けを喫した直後に、リージョ監督が電撃辞任したことで風向きが変わった。リージョ監督の就任に伴って実質的に解任され、強化部入りしていた吉田孝行監督(42)が再登板する不可解な人事が、チーム内の混乱に拍車をかける。