イニエスタの今季初ゴール背景にフィンク新監督の戦略
スカウティングを通じてFC東京がサイド攻撃にやや脆いことと、後半開始から15分間に総失点の半分を喫しているデータも得た。 決勝点は右サイドからDF西大伍(31)が放ったクロスが逆側へ流れ、フリーの状態で拾ったイニエスタがファーサイドへ打つと見せかけて、巧みにニアサイドを射抜いて生まれていた。時間はデータ通りの後半4分だった。 「彼(イニエスタ)の守備の負担を減らしてあげたいと考えていた。彼と一緒に組むときの自分の役割ははっきりしている。特に話し合わなくても自然とできた」 4バックに戻った最終ラインの前で、イニエスタとダブルボランチを組んだ元日本代表の山口蛍(28)は、フィンク監督から先発メンバーを告げられた瞬間に、より黒子に徹する自分の姿を思い描いた。 そしてイニエスタを中心にボールを支配する展開に「手応えを感じた」と振り返る。 「ファンマのときにやっていたことを思い出すこともあった。試合前にモチベーションを高めてくれるし、一番は気持ちの部分を僕たち選手に植えつけてくれていることだと思う」 ファンマとはリージョ監督の愛称だ。今年4月まで標榜してきた、ポゼッションサッカーという原点へ回帰しただけではない。イニエスタを心臓部のボランチにすえ、山口だけでなく、必要とあれば運動量が豊富な左右のウイング、小川慶治朗(26)と三田啓貴(28)も中盤の守備に戻らせる。 それでいて、状況を見ながら前線へのロングボールや、長いサイドチェンジのパスも織り交ぜる。就任会見で「ポゼッションと言っても、さまざまな形がある」と豪語。いわゆる「バルセロナ化」という言葉へ集約させる傾向に一石を投じたドイツ人指揮官のもとで、ヴィッセル独自のスタイルを探し出す再チャレンジは最高の結果とともに船出した。 (文責・藤江直人/スポーツライター)