バカ増殖中の日本に知の巨人が警鐘…「精神年齢が幼児の大人」が社会システムを腐らせる絶望的事実
■人間がAIに勝てる唯一の部分とは 【養老】シミュレーションが進みすぎて、シミュレーションから外れる事態は想定外だと言って消してしまう。それをやっていると当然、詰めて考えないクセがつくでしょう。考えることは生成AIにやらせて人間は楽をすればいいと構えていたら、考える訓練をどこですればいいのかわかりませんね。 【内田】人間がAIに勝てる唯一のアドバンテージは、想像力を暴走させることができる点だと思うんです。経済も政治も複雑系ですから、わずかな入力変化で劇的な出力変化が起こる。必ず想定外の出来事は起こる。だから、どこまで想定外を想定できるかが人間が機械に勝てる点だと思いますね。 【養老】そうですね。理科系の研究では人間がコンピューター的にシミュレーションするので、出てくる結果は想定内でクソ面白くもない。 日本人が気づきを得るために、僕は南海トラフ待ちなんですよ。逆説的な言い方ですが。 【内田】南海トラフが来たら、どうなります? 【養老】「さて、これからの生活どうする?」という大問題に直面するでしょう。復興の過程で、大量の食料やエネルギーを輸入して消費する現在の形をどこまで維持しようとするか。仕方なく思い切って縮小して、ここまであればいいと割り切れるかどうか。 そうした判断を今押しつけるわけにもいかないし、そのときになってみなければわかりませんけどね。 ※本稿は、雑誌『プレジデント』(2024年10月18日号)の一部を再編集したものです。 ---------- 養老 孟司(ようろう・たけし) 解剖学者、東京大学名誉教授 1937年、神奈川県鎌倉市生まれ。東京大学名誉教授。医学博士。解剖学者。東京大学医学部卒業後、解剖学教室に入る。95年、東京大学医学部教授を退官後は、北里大学教授、大正大学客員教授を歴任。京都国際マンガミュージアム名誉館長。89年、『からだの見方』(筑摩書房)でサントリー学芸賞を受賞。著書に、毎日出版文化賞特別賞を受賞し、447万部のベストセラーとなった『バカの壁』(新潮新書)のほか、『唯脳論』(青土社・ちくま学芸文庫)、『超バカの壁』『「自分」の壁』『遺言。』(以上、新潮新書)、伊集院光との共著『世間とズレちゃうのはしょうがない』(PHP研究所)、『子どもが心配』(PHP研究所)、『こう考えると、うまくいく。~脳化社会の歩き方~』(扶桑社)など多数。 ---------- ---------- 内田 樹(うちだ・たつる) 神戸女学院大学 名誉教授、凱風館 館長 1950年東京都生まれ。東京大学文学部仏文科卒業。東京都立大学大学院人文科学研究科博士課程中退。専門はフランス現代思想、武道論、教育論など。2011年、哲学と武道研究のための私塾「凱風館」を開設。著書に小林秀雄賞を受賞した『私家版・ユダヤ文化論』(文春新書)、新書大賞を受賞した『日本辺境論』(新潮新書)、『街場の親子論』(内田るんとの共著・中公新書ラクレ)など多数。 ----------
解剖学者、東京大学名誉教授 養老 孟司、神戸女学院大学 名誉教授、凱風館 館長 内田 樹 構成=石井謙一郎 図版作成=大橋昭一