バカ増殖中の日本に知の巨人が警鐘…「精神年齢が幼児の大人」が社会システムを腐らせる絶望的事実
■日本人の身体の6割は外国産である 【養老】「東京一極集中を止めよう」というのが典型でした。文化庁が京都へ行ったきり、あとは知らんぷり。 【内田】先生は、以前都市と田舎を定期的に入れ替える参勤交代みたいな制度を提唱されていましたね。 直下型地震が首都圏を襲って、日本の統治機能も経済活動も壊滅的な被害を受けるというのがさし当たり想定しうる最悪の事態なわけです。だったら、とにかくリソースを地方に分散することですよね。リスクヘッジを考えたら東京一極集中は最悪手です。でも、実際には役所がひとつ京都に移っただけで、一極集中はさらに進行した。 【養老】ちょっと考えれば誰でもわかるはずなんだけど、みんな本気じゃないんですよ。日常生活が保障されているのには功罪あって、その日常が壊されなければ真剣に考えない。食の安全保障もそうでしょう。食料はどこかから買ってくればいいだろうという現在の方策は、世界が天候不順で不作になった途端に破綻します。 農林水産省は食料自給率がカロリーベースで4割に満たないと、ずっと前から警鐘を鳴らしていますが、誰も本気で聞いていない。だから僕は、「日本人の身体の6割は外国産だよ」と言ってるの(笑)。 【内田】東大大学院の鈴木宣弘教授は、輸入している種や化学肥料まで含めて試算した実質自給率は、9.2%だと言っていますね。 【養老】エネルギーの自給は、食料より難しいです。日本の場合、地熱か海を使うしかないでしょう。バイオマスの試算を見たことがあるんですけど、毎年の植物生産量をエネルギー換算すると、現在の日本人が使っているエネルギーの4%にしかならないそうです。 【内田】たった4%ですか。江戸時代の人はよくやってましたね、薪だけで。 【養老】ほとんどの山は、裸になってましたけどね。六甲山が典型ですけど。 【内田】江戸時代は全国が276の藩に分かれ、食料もエネルギーも基本的には藩単位での自給自足体制でした。それで300年近くシステムが安泰だった。最終的に黒船がやって来て、このままでは植民地にされるので、やむなく藩を廃して、国民国家をつくった。 【養老】内田さんは“廃県置藩”を提唱していたけど。 【内田】そうです。県を廃してかつての藩に戻そうと今も主張してます。行政単位をもっと細かく割って、水力でも地熱でも潮力でも、それぞれの地域の特性を活かしてエネルギー自給体制を構築しておけば、どこかで発電が止まってもリスクヘッジできる。小さな単位に分けて、それぞれの単位内でエネルギーと食料の自給を考えるほうが安全だし、合理的ですよ。 【養老】なぜ巨大化してきたかというと、効率を考えるからですね。人生のタイパコスパと同じで、効率で考えるとろくなことがありません。いずれまた黒船が来るでしょう。ずっとアメリカでしたが、次は中国かもしれません。 【内田】アメリカは中国との戦争は絶対に避けたいと思っています。でも、在日米軍基地がある限り、日本列島近辺で偶発的に起きた軍事的衝突に米軍が巻き込まれるリスクは常にある。だから、米中戦争のリスクを回避しようと思ったら「在日米軍基地を撤収する」というのが最も合理的な解なんです。もしトランプが再び大統領になったら、日米安保条約廃棄という「ブラフ」を仕掛けてくる可能性はありますよ。 【養老】新たな黒船が来たならローカルのほうが潰される。これが歴史の通例だと思います。 【内田】次の黒船がどういう形で来るかは想像がつきませんけれど、今のように効率と収益性を重視して自給自足を軽んじる行き方にはまったく危機耐性がないのは確かです。もっとリスクに強い国づくりへシフトすべきです。