バカ増殖中の日本に知の巨人が警鐘…「精神年齢が幼児の大人」が社会システムを腐らせる絶望的事実
■破壊の快感に酔う政治家たちの無責任 【養老】それなのに、平気でああいうことを言うなんて……。自然保護関係の団体がクレームを入れたみたいですけど、とんでもない話です。 【内田】国立公園で動物や植物を保護するためには、日々の積み重ねが必要ですよね。そういう努力はなかなか可視化されません。でも、高級ホテルを建てて、それまで守ってきた自然を破壊することはあっという間にできる。だから、別に国立公園に高級リゾートを誘致しようとしている人は、それで金を儲けたいということだけじゃないと思うんです。それよりもみんなが大切にしているものを破壊することに快感を覚えているんだと思う。 【養老】僕は環境と自然に関わって長いので、内田さんの言われた“壊す容易さ”というのがよくわかります。虫の標本だって、作るのにはえらい手間がかかるけど、壊すのはわけもない。 【内田】政治がこの間やってきたことって、小泉純一郎から後はすべて「ぶっ壊す」ことですよね。既存のシステムを壊すことを「改革」と呼んでありがたがっている人たちは全能感にアディクトしているんだと思う。病気ですよ。 よく「政治家がバカなのは、選ぶ有権者がバカだからだ」という言い方をしますけれど、僕は違うと思う。あの人たちが世の中の空気を決めているんです。政治家がバカになったのが先なんです。それを真似て有権者もバカになった。だから、バカ度の高い政治家がより高いポピュラリティを獲得する。政治が劇場化してからは声や動作の大きな人間、意外性のある芝居をする人間に目が行くようになった。 【養老】日本人の面白いところは、本気にならないことだと僕は思うんですね。あまり必死にならず、考えずに済まそうとする習性があるんじゃないのか。 いい例が地震への備えです。京都大学の総長も務めた地震学者の尾池和夫先生が、南海トラフ2038年という説を唱えています。しかし政治家もメディアも、税金で専門家を養成しながら、本気で話を聞きません。日本人には、悪い予測やシミュレーションは聞かない悪いクセがあるんです。 今年元日の能登半島地震クラスが人口稠密(ちゅうみつ)地帯で起こったら本気で考えるようになると思うんですが、まだ必要に迫られていないので、なんとなく毎日を過ごしています。 【内田】アメリカ人は最悪の事態を含めて複数のシナリオを併記しますね。「あり得ないようなシナリオ」を思いついて、その場合でも対処できる対策を起案できる知性が高く評価される。日本ではそういうことがない。さまざまなシナリオを考えて、それぞれについて被害を最小化する対応策を立てるという発想がない。最悪の事態に備えて整えた準備が仮に無駄になったとしても、それは何の備えもせずに最悪の事態を迎えた場合に失われるものとは桁が違います。ですから、本当に経済合理性に基づいて考える人なら、最悪の事態に備えて準備するほうが、楽観的に構えて何もしないより「算盤に合う」ことがわかるはずなのに。