樋口恵子「朝ドラ『虎に翼』が支持されるのは、今の世の中が100年前と地続きだと感じるから。〈性別により差別されない〉新憲法は大きな希望だった」
NPO法人「高齢社会をよくする女性の会」理事長の樋口恵子さんによる『婦人公論』の新連載「老いの実況中継」。92歳、徒然なるままに「今」を綴ります。第17回は、【選挙権のない時代に生まれて】です。(構成=篠藤ゆり イラスト=マツモトヨーコ) 【写真】女性官僚のパイオニア・赤松良子さんと樋口さん * * * * * * * ◆尊敬する先輩の一人、三淵嘉子さん 法曹界で活躍した女性をモデルにした、NHK連続テレビ小説『虎に翼』が、注目を集めているようですね。 そのモデルとは、日本初の女性弁護士の一人であり、戦後は日本初の女性裁判所長となった三淵嘉子さん。1914(大正3)年生まれですから、私より18歳上です。明治大学の女子部法科で学ぶ前は、東京女子高等師範学校の附属高等女学校(現・お茶の水女子大学附属中・高)に通っていたので、私にとっては学校の先輩でもあります。 直接面識はありませんでしたが、女性の社会進出のために尽力した女性たちの「長い列」の前のほうを歩いていた方なので、心から尊敬していました。 私が東京女子高等師範学校の附属高等女学校を受験したのは1945年、敗戦の年です。私と、小学校からの親友の2人は、入試成績がよかったにもかかわらず落とされそうになりました。理由は、2人とも結核で休学したことがあるから。 全快とお医者様も保証してくださっているのに、病歴による差別を受けそうになったのです。結局、職員会議のような場である方が異議を唱えてくださったとかで、入学が許されました。 入試差別といえば、2018年には10大学の医学部入試で女子受験者を不利に扱う得点操作がされていたことが明るみに出て、問題となりました。その際、「妊娠や出産、育児があるから女性医師数の抑制は必要悪だ」などと述べた医療関係者もいて、これが21世紀の日本の姿なのかと愕然としました。
◆「憲法の何条が好き?」希望の光のように感じて ドラマ『虎に翼』の放送第1回などで、日本国憲法第14条を紹介していたとか。14条は、「すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」から始まります。 主人公は日本初の女性弁護士の一人になりましたが、妊娠したことで仕事を諦めざるをえなくなります。やがて戦争の時代となり、夫は戦病死。敗戦後、悲しみにくれた主人公は、闇市で買った焼き鳥が包まれていた新聞紙で日本国憲法が発布されるというニュースを知ります。 それがどれほど彼女に、大きな希望を与えたか。戦後生まれの人にはピンと来ないかもしれませんが、戦前生まれの私は、その気持ちがよくわかります。 私も15歳のみぎり、お昼休みにクラスメイトたちと、「あなたは憲法何条が好き?」などとよく話したものです。それほど日本国憲法は輝かしいものに思えたのです。 戦争はこりごりでしたので、第9条の戦争放棄も大賛成。でも、私が一番心惹かれたのは、第27条「すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負ふ」でした。第14条と27条があるのだから、女性でも自分の能力を生かして、社会で活躍できるに違いない。そう思ったのです。 なにせ私たちは、女性に選挙権も被選挙権もない時代に生まれた世代だったのですから。「性別により差別されない」と謳った新憲法は、大きな希望となりました。
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