近年急増する「発達障害よる夫婦関係のトラブル」。妻の身に起こるカサンドラ症候群とは?
ここ10年ほどでぐっと認知度が上がった発達障害。前編では発達障害がどのような障害であるかを昭和大学発達障害医療研究所の所長で准教授の太田晴久先生にうかがった。 ▶︎すべての写真を見る
後編では、最近増えているという発達障害の夫婦関係について語ってもらった。
夫の発達障害に悩む妻の症状「カサンドラ症候群」
――前編では、大人になって発達障害と診断されることもあるとお聞きしました。仕事だけでなく、夫婦関係で悩んでいる方もいるのでしょうか。 太田 そうですね。「カサンドラ症候群」という言葉をご存知でしょうか? 正式な医学用語ではないのですが、特に“発達障害の夫を持つ妻”に現れる症状のことを指します。 例えば、夫がASD(自閉スペクトラム症)でコミュニケーションや共感力を苦手としていた場合、夫婦間の会話や意思疎通がうまくいかないと苦悩し、妻側が心的ストレスを感じて不安障害や抑うつといった症状が起きてしまう状態です。 「夫婦関係をうまく築けない」と困って受診され、夫が発達障害だったというケースがかなり増えています。 ――男性は一般的にコミュニケーション不足のような面もあるように感じます。 太田 もちろん逆もあって、夫婦関係がうまくいかず、夫が発達障害だと思って受診したら“違った”というケースもあります。それは夫婦の相性の問題かもしれないし、必ずしも夫婦のどちらかが発達障害だとは限りません。 ただ、夫婦間のもつれの原因が発達障害だったケースがあるのも実状。妻だけでなく、中高年男性が受診されることも近年は増えています。
――前編では発達障害を疑って受診する年齢層は20~30代がいちばん多く、その次に中高年とおっしゃっていましたね。 太田 はい。2008年、当院で発達障害外来を始めた頃は、就職活動に困った若者たちがメインでした。ですが、人口のボリュームゾーンがこの10年で移り、今は中高年男性の夫婦関係の困り事が多くなってきています。 妻だけに焦点を当て「カサンドラ症候群」と言われがちですが、夫もまたコミュニケーションをうまく取りたいのにとれない、行き場所がないと困っているわけです。 ――夫婦関係がうまくいかないことが発達障害によるものだった場合、どのような事例がありますか? 太田 男性の場合は、知的能力が高く、なんとか仕事は適応している人が多い印象です。特性がそこまで重くないので、職場では困難を抱えつつも仕事を続けられているけれど、情緒的交流が求められる夫婦関係となるとズレが大きくなってしまうんです。 そして、退職後や子供が巣立ったあとなど、妻と一緒にいる時間が増えるにつれ、そのズレが目立ってくるケースが多いです。