猛暑で酒米に異変、「暑さに強い新品種を」…農家の求めに応じ開発中の有望株「大育酒3844」
「この貧弱な稲は何だ?」 7年ほど前、滋賀県日野町の米農家・植田栄蔵さん(76)が県独自の酒米「 吟ぎん吹雪ふぶき 」の栽培を始めた時の第一印象だ。米作りに携わり半世紀以上。腕に自信はあった。ところが、稲が思うように伸びず、水田1反あたり10俵(約600キロ)程度と聞いていた収量も6~7俵分にとどまった。その後も、うまく栽培できず、史上最も暑い夏だった2024年は「特にひどかった」と肩を落とす。 【写真】暑さに強い有望株「大育酒3844」
◇ 気候変動による猛暑の影響で、酒米に異変が起きている。 かつて県内で栽培が奨励された酒米は、育てやすい「玉栄」などだったが、産地競争が激化。玉栄と、吟醸酒など高級な酒造りに好適とされる「山田錦」のいいとこ取りをしようと、県農業試験場(当時)が開発したのが吟吹雪だ。山田錦と玉栄を掛け合わせた水稲を育成し、1999年に品種登録した。
酒米は、粒の内部の白い部分「 心白(しんぱく)」が適度にあるかどうかが酒の良しあしを左右する。玉栄よりも心白が出やすく、山田錦よりも倒れにくい吟吹雪の生産は増えていき、2023年の県内生産量は207トンで、山田錦716トン、玉栄247トンに次ぐ3番手だった。
一方で、近年、暑さに弱いことが浮かび上がってきた。県農業技術振興センター(近江八幡市)で四半世紀にわたって酒米の育成に携わる吉田貴宏さん(47)によると、吟吹雪は穂が出る前の7月下旬頃~8月中旬頃の1日の平均気温が高いほど実りが減る傾向があり、開発当初はうまく育てれば1反10俵程度の収穫が見込めたが、収量は年々減っているという。18年以降は同期間の平均気温が30度近くに上昇。収量は1反5俵前後にとどまり、採算が取れにくくなっている。
◇ 「酒米にも暑さに強い品種を」――。農家の求めに応じ、センターは吟吹雪と収量が多い「吟おうみ」を交配し、16年から新品種の育成を始めた。