20代~60代女性で1年間セックスをしていない人は約50%。性欲がないのはなぜ?【専門医の回答】
“健やかで美しい体と心”を手に入れるための最新情報を女性医療ジャーナリストの増田美加がお届けします。セックスレスが進んでいると言われています。特に更年期世代以降の女性を見るとセックスレスは60%以上。セックスしている人としていない人の違いは何? 女性泌尿器科の専門医で性機能に詳しい医師に聞きました。 〈写真〉20代~60代女性で1年間セックスをしていない人は約50%。性欲がないのはなぜ? ■閉経後もセックスする人としない人の違いは何? 「性欲がなくなった」「夫とセックスしたいという気持ちにならない」という女性の声をよく聞くようになりました。更年期以降は、セックスレスが普通なのかと思いつつも、一方で変わらぬ性生活をしている60代以降の女性もいます。その違いは何なのでしょうか?20~60代の日本人男女に聞いた大規模調査で女性の49.5%、男性の41.1%が「この1年間まったくセックスをしていない」と答えています。50代女性だけを見ると65.8%にのぼります。*1 このように、更年期以降はセックスをしていない人のほうが多数です。閉経で、自然と性欲がなくなり、セックスしたい気持ちがなくなるのは普通のことかもしれませんが、「セックスすることには、健康へのベネフィットがある」と話す、女性の性機能について詳しい女性泌尿器科の医師、二宮典子先生。 *1【ジェクス】ジャパン・セックスサーベイ2020(日本家族計画協会協力)調査 ■メンテナンスをしていないと性欲がなくなる? 閉経して性欲がなくなるのは、自然なことではないのでしょうか? 「体のメカニズムからお話します。まず、女性にも男性ホルモンは分泌しています。女性の男性ホルモンは40代から減少します。女性ホルモンは、50代から激減します。更年期以降は、性ホルモン(女性ホルモン、男性ホルモン)の低下だけでなく、体力も落ち、フェムゾーンの感度も下がるため、メンテナンスをしていない人は、楽しんでセックスができなくなります。更年期から、性交痛を我慢していた人も、少なくないのではないでしょうか?性ホルモンの減少から見ても、性欲がなくなる人が多いのは、想定できます。また日本女性は、若いときからセックスをする理由は相手に求められるから、子どもを作るためなどが多く、特に我慢して行ってきた人は、セックスから解放される喜びのほうが勝っているのかもしれません。けれども、閉経以降もメンテナンスしていけば、ずっとセックスを楽しむことは可能です」と二宮先生。 ■どんなメンテナンスが必要? セックスを楽しむには、メンテナンスが必要なのですね? どんなメンテナンスをすればいいのでしょうか? 「多くの女性を診察していると、ホルモンレベルの高い人のほうが、性欲があると感じます。メンテナンスをしなくても、70代80代で若々しい腟の人が5~10%くらいはいます。しかし、痛みや不快感があったり、性欲低下がある人は、GSM(閉経関連尿路生殖器症候群)やHSDD(性的関心興奮障害)などの性機能障害の可能性があります。これらを治療することが、メンテナンスに繋がります。私のクリニックでは、内診、経腟超音波、尿検査ほかで、ほかの病気がないかを確認します。それから、その方に合わせて女性ホルモン補充療法(エストロゲンの内服、塗り薬、パッチ薬)や男性ホルモン補充(テストステロン注射、塗り薬)などを行います。DHEA(弱い男性ホルモン作用)のサプリメント、CO2レーザー、YAGレーザー、高周波(RF)などの治療法もあります。フェムゾーンで困ったことがあったら、女性泌尿器科を受診してもらえたらと思います」(二宮先生)。 女性泌尿器科や婦人科を定期的に受診して不調や病気があれば治療することが、セックスを楽しむためのメンテナンスになるわけです。 参考資料/「外陰膣萎縮症状に伴う女性の性機能障害と下部尿路症状:GENJA試験の結果」尾崎由美ほか2023年日本泌尿器科学会 ■性欲低下の原因となり得るGSMとHSDDとは? 女性の性機能障害には、性交痛、腟の筋肉の痛みを伴う収縮(痙攣)、性欲や性的興奮の問題、オルガスムに伴って感じる痛みなどがあります。特に、更年期以降に多いのは、GSMとHSDDです。 ■■GSM(閉経関連尿路生殖器症候群)とは? 閉経前後から腟症状(臭い、乾燥、痛み)、性交痛(濡れない、オーガズムがなくなる)、排尿症状(尿をしたいムズムズ感、膀胱炎をくり返す、残尿感など)が起こる新しい概念の病気で治療可能です。 ■■HSDD(性的関心興奮障害)とは? 大脳における伝達系異常のため性的興奮の抑制が強く、または減弱してしまうことで性的な関心、興奮状態の欠如が生じる状態です。こられの症状に女性が苦痛を感じている場合は、治療対象となります。 ■いいセックスは血管、神経、脳、骨、筋肉を活性化 年齢を重ねても、セックスできる体を維持したほうが、健康寿命にもいい影響があると言われるとそうですが、どうなのでしょうか? 「パートナーとのいいセックスは、脳、筋肉、骨、血管、神経、メンタルにいい影響を与えます。セックスによる筋肉の収縮と弛緩、オーガズムでしか体験できない脳の働きがあります。血流がよくなり、リラックスできて、ストレス発散にもなり、良質の睡眠にも繋がります。体の活性化や脳のリフレッシュになります。いいセックスをしていると、健康というメリットがついてくると思っていいでしょう。ただし、セックスによって炎症が起きたり、感染症にかかったり、膀胱炎にかかることもありますので、ケアをすることは大切です」(二宮先生)。 ■セックスとマスターベーションの大きな違い いいセックスには、パートナーとの関係性が大切になります。やはり、夫であってもセックスできるパートナー関係がないと難しいと思いますが、どうなのでしょうか? 「セックスは、相手とのコミュニケーションで、自分も高まっていくいい経験ですが、相手がいないマスターベーションでもいいと思います。オーガズムに達することを目的にして、自分の体を開拓していくのです。オーガズムに達するときの体の反応は、脳、筋肉、骨、血管、神経、メンタルに関係します。ほかのエクササイズでは味わえないものがあり、体も脳も活性化されます。極めれば、短時間でリフレッシュし、良質の睡眠も手に入れることができます。相手のいるセックスと、自分だけのマスターベーションは、ジャンルの違うものです。スケートでたとえれば、フィギュアスケートとスピードスケートほど違うジャンルだと思います」(二宮先生)。 セックスを何年も経験せず、マスターベーション経験のない女性もいると思いますが、閉経後でも可能でしょうか? 「婦人科の子宮頸がん検査や経腟超音波で痛くない人は、セックスでも大丈夫。マスターベーションが初めてでも、回数を重ねていくとオーガズムに達することができるようになります」(二宮先生)。 ■良好なセックスには意外にも便通の良さが関係! ほかに、性欲を正常に維持するために大切なことは、便通よくすることと言われています。 「便秘で、便が溜まっている状態は、良好なセックスのためにもよくありません。便通がいいと、ウオシュレットで洗い過ぎてかぶれたり、おりものが増えることもなく、頻尿も性交痛も減ります」(二宮先生)。 お通じをよくするためには、食事に気をつけることも大切でしょうか? 「小麦をたくさん摂ると、便がべたつき、肛門からスルっと出ません。小麦を減らすことで、ウオシュレットでの洗い過ぎを防げます。流したあとに、便が便器についていたら、ベタベタしている証拠ですので要注意です。また、繊維質をたくさん摂るようにすると、スルっとバナナ状の便が出るようになります。フェムゾーンの保湿も大切です。食事、排尿、排便に気をつけて、健康でいることが性欲維持に役立ちます」(二宮先生)。 ■■お話を伺ったのは…二宮典子(にのみやのりこ) 先生 医療法人 心鹿会 理事長、女性泌尿器科医。香川大学卒業。大阪市立大学大学院医学研究科泌尿器病態学入局ほかを経て、2021年より現職。日本泌尿器科学会認定専門医・指導医、日本東洋医学会認定漢方専門医、日本性機能学会専門医。女性のためのYouTube『ココシカ診療所』が人気。『女医が教える潤うからだづくり』(主婦の友社)ほか著書多数。 取材・文/増田美加(女性医療ジャーナリスト)
増田美加