なぜセ最下位の横浜DeNAがパ首位のソフトバンクに逆転勝利できたのか…ルーキー牧のリベンジと無安打無失点ブルペンの仕事
「二、三塁になった時点でチャンスで回ってくると思った。前の楽天戦で打てなかったので、それを意識して、リラックスして打席に入った」 脳裏をかすめたのは3日前の屈辱である。 5月29日の楽天との交流戦。1-1で迎えた9回無死満塁のチャンスに、クローザーの松井裕と対戦した牧は、ファウルで粘ったが、最後は高めのボール気味のストレートをマンぶりして三振に倒れた。 外野フライでも勝ち越しの場面で最悪の結果。その後、スクイズの見落としという信じられないサインミスまで出て、無得点に終わり、手中におさめつつあった勝利を逃して引き分けに終わっている。 「変な力みがあった。冷静じゃない自分がいたんです」 だから逆に力を抜いた。 カウント2-1。ここまで全球ストレートだった。 「カウントが良かった。(真っすぐが)来るんじゃないかと思っていた」 149キロのストレートが真ん中低めに。甘いボールではなかったが、この日の松本のストレートにはバラつきがあった。逆らわずセンターから右へ。手応え十分。 「ほんとは入ったかなと」 逆転満塁弾を確信した牧は、左手1本でバットの先をセンター方向へ突き出して一塁へと走った。だが、打球はフェンスの最上部。大きな勘違いに「恥ずかしかった」と笑うが、2者が楽々生還する価値ある逆転2点タイムリー二塁打である。 「こういう形で勝ちがつくのは嬉しい。チームも勢いに乗れたかなと思う」 先制タイムリーも含めた4の4の3打点。ルーキー牧の夜だった。 「自分らしいバッティングを貫こうと今日に臨んだ」 貫いた牧の自分らしさとは何なのか。 「そうですね。これというのはないが、中途半端なスイングをしたり、打席で迷うことなくですね。右中間の打球が一番好き。その打球がいったので良かった」 牧の特長は、どのボールに対しても崩れず、軸のぶれないスイングができることにある。本人が言うようにポイントが体の近い場所にあり、センターから右へ打てるのが、相手バッテリーを困らせる点。そして対応力と修正能力が高い。 2回の先制タイムリーは武田の代名詞である縦割りのカーブをとらえた。そのカーブの1球目は空振り、続いた2球目にタイミングを合わせた。 「なかなか打てるボールじゃないと空振りをしたときに思った。それを頭に入れて1球でうまく修正できた。」 この対応力が牧の非凡さである。 開幕から打棒が爆発。打率は3割を超え、一時期、阪神の怪物ルーキー佐藤と本塁打争いをするほどで、クリーンナップを任されたが、遠征移動と連戦が重なるプロのスケジュールによる疲れと、徹底したマークで成績は急降下していた。だが、その中でも牧は進歩しプロで生きる術を身につけていた。そのひとつが睡眠。8時間をキープし、「その日の結果を次の日に持ち越さない」という気持ちの切り替えを学んだ。 三浦監督も「凄い。頼もしい限り」と、ルーキーを称えたが、8回の逆転への流れを作った“影の殊勲”ブルペン陣を絶賛した。 「リリーフ陣が作ってくれた流れだと思う」 球数の多かった先発のピープルズは4回3失点で降板したが、平田が5回、国吉が6、7回、三上が8回をなんとパーフェクトリレー。野球のゲームの流れは正直である。