京都の禅寺〈両足院〉で見る。日本の伝統建築と融合する、ポール・ケアホルムの世界。
デンマークを代表する家具デザイナー、ポール・ケアホルム。そのミニマルなデザインと洗練された構造美を持つ作品と、和の空間との親和性を体現できる展覧会が、京都の禅寺〈両足院〉で開催中です。 【フォトギャラリーを見る】 若くして家具職人としての修行を積み、のちにコペンハーゲンのデンマーク美術工芸学校で学んだケアホルム。当時から建築素材であるスチールに魅了され、木などの天然素材と同様に芸術的な敬意に値すると考えていたという。 卒業制作としてデザインされた《PK25》は、 継ぎ目のないアーチ状に曲げた一片のスチールと麻ひもとで構成されたチェア。今なお人気の高い名作からは、ケアホルムの素材に対する熱意と美意識が伝わってくる。残念ながら1980年、51歳の若さで亡くなるまでに発表された作品はどれも、計算され尽くした絶妙なバランスで成り立つシンプルな構造。パーツの一つひとつまでが洗練されており、余分なものはない。その細部にまで宿る美を知ることのできる展覧会である。
かねてより、日本の伝統的な和の空間とも自然に調和することでも知られてきたケアホルムの作品。その親和性について、建築家である妻のハンナ・ケアホルムとの間の2人の子ども、トーマスとクリスティーヌはこのような言葉を寄せている。 「母が設計し、父が家具を手がけた私たちの家は、単なる生活の場を超え、両親それぞれが受けた芸術的・哲学的な影響を具現化したものでした。その一つが繊細でありながらも深遠な日本のデザインです。母方の祖父は日本語を学び、何度も日本を訪れ、シンプルで美しい日本の美意識と、その豊かな文化に深い感銘を受けていました」 「私たちが生まれ育った家で大切にされていたのは『間』。この『間』という考え方は日本建築の中で重要な要素であり、母はその概念を深く理解し設計に活かしていました。そして父がこの家のためにデザインした家具は、意図的でありながらも、極めて自然に母の建築的思想を引き立てるものでした。床との関係性を大切にしたミニマルで無駄のないデザインは空間との一体感を生み出し、光と影が交わるための余白を持たせる静かなる優雅さがあり、シンプルな調和を重んじる日本の伝統的な建築空間にも通じるものがある。 父は主にデンマークのモダニズムの影響を受けていましたが、日本のデザインとの共通点は否定できません。彼の家具が生み出す開放感と、呼吸や思索の余白を残すデザインは、日本の『間』という概念に通じています。この展覧会では、日本が両親に与えたインスピレーションがひとつの縁を完結させたようにも感じています」(トーマス・ケアホルム)