「アレック・ソス 部屋についての部屋」(東京都写真美術館)レポート。6つ「部屋」で見つけた夢・憧れ・写真への情熱
相反するふたつの物語
3番目の部屋で展示されているのは、ソスの作品のなかでもパーソナルな要素が強い「Dog Days, Bogotá」、社会と距離を置いて離れた場所で暮らす人々に焦点を当てた「Broken Manual」、そしてローカルコミュニティにおける人々の交流を写した「Songbird」シリーズだ。 「Dog Days, Bogotá」が撮影されたのはアメリカではなく、コロンビアの首都ボゴタ。2003年にソスが養子縁組のためこの街を訪れ、2ヶ月間滞在した。養子に迎える彼女がどのような環境で育ち、どのような経験をしてきたのか。彼女を理解しようとしたソスがボゴタの街を彷徨って、シャッターを切った。 「Broken Manual」と「Songbird」は多面的に異なるシリーズである。2006年から2008年にかけて撮影された「Broken Manual」は人物を映さずに、廃屋や洞窟の空虚な風景を介して社会から離れた人々の生活に迫る。いっぽうで、2012年から2014年にかけて撮影された「Songbird」は音楽と感情的な声が溢れる場面にフォーカス。対照的なアメリカ社会の現実が表現されている。
溶け込まない旅行者の眼差し
個人的なプロジェクトを展開しながら、雑誌の取材や広告にも積極的に携わるソス。第4の部屋に入って、すぐ目に飛び込むのは2015年に『ニューヨーク・タイムズ・マガジン』の「Voyage」特集企画で撮影した《Park Hyatt Hotel, Tokyo》(2015)のセルフポートレイトだ。東京の夜空を浮いているような、半分夢のなかにいるような写真がタイトル通り、パーク ハイアット 東京で撮影されている。同ホテルを舞台にしたソフィア・コッポラの映画『ロスト・イン・トランスレーション』(2003)に着想を得たソスは、インターネットで知り合ったゲストを部屋に招き、その様子を撮影した。海外メディアで描かれているような、一見偏った日本のイメージに見えるが、ソスは東京そのものではなく、「東京を体験している自分」を写したかったという。溶け込むことのない旅行者のイマージネーションのなかにある「ニッポン」が、ありふれた日常に違和感を持たなくなった私たちに新しい視点を与えてくれるかもしれない。 「Paris/Minessota」はマグナム・フォトが発行する写真集『Fashion Magazine』のために撮影されたシリーズ。写真集は毎号異なるマグナム・フォトの所属作家が担当するファッション写真で構成されている。ソスが挑んだのは、フランスのパリとアメリカのミネソタでの同時撮影。ショールームやファッションショーなどが中心となるパリにと対照的に、ミネソタの写真の多くは室外を舞台としている。入りたくても、うまく馴染めないスタイリッシュなファッションの世界。ここでも溶け込めない作家の内心の葛藤がある。