「アレック・ソス 部屋についての部屋」(東京都写真美術館)レポート。6つ「部屋」で見つけた夢・憧れ・写真への情熱
ミシシッピ川沿いに見つける「夢」
最初の部屋には2004年に初の写真集として刊行されたシリーズ「Sleeping by the Mississippi」を中心とした初期のカラー作品が展示されている。同シリーズはミネソタ州北部のイタスカ湖に端を発し、ルイジアナ州でメキシコ湾に注ぐ、全長約3780kmのミシシッピ川に沿って旅をし、人々や風景を撮影したプロジェクト。ドキュメンタリー的な一面を持つシリーズだが、一瞬の出来事を切り取った一枚と言うにはあまりに完璧すぎる構図である。凛とした表情でカメラを見返している被写体がインテリアに埋もれることなく、お互いに共鳴し合って、時代を超えたアメリカの普遍的な美を表している。 ソスがカメラのセッティングを行なっているあいだに被写体には紙に「夢」について書いてもらっているという。そこにはミシシッピ川の堅いドキュメンタリーではなく、イマジネーションの世界を映し出すような写真を撮りたかった意図がある。ドアに貼られているマーティン・ルーサー・キング・ジュニア牧師の写真が写り込んでいる《Jimmie's Apartment, Memphis, Tennessee》(2002)を見れば、キング牧師が行った「私には夢がある(I Have a Dream)」の演説が思い浮かぶ。あるいは、ディズニープリンセスで埋め尽くされているベッドや淡いピンクが特徴的な《Crystal, Easter, New Orleans, Louisiana》(2002)からは「夢」がポロッと落ちこぼれていることに気づくかもしれない。あらゆるところにかたちが異なったアメリカン・ドリームが生きている。
偶然の出会いと愛を探し求めて
次の部屋に進むと、ソスが20代半ばだった1996年頃に撮影された「Looking for Love」というモノクロのシリーズに出会う。映し出されているのは、ソスが当時住んでいたアメリカ中西部の街で偶然出会った人々だ。彼ら彼女らはタイトル通り、愛を探し求めているのだろうか。高校の卒業を前にしたダンスパーティーで甘酸っぱい恋する若者や、独身者向けのイベントで最後の愛を探す人々が取り留めのない風景に溶け込む。じつはソスのセルフポートレイトも混ざり合っているのだ。結婚式の後に撮影された一枚は、愛を掴めた人の喜びとゆとりを表現しているように見えなくもない。 隣に展示されているのは2004年から2005年にかけて撮影された「Niagara」シリーズ。人気の観光地であるナイアガラの滝ではなく、滝の周りに広がる風景やそこに暮らす人々に焦点が当てられている。旅行中のカップルや結婚式を挙げた家族の写真を通して、愛を求める人は場所や時代を問わず存在していることを私たちに伝えようとしている。 同じ部屋にソスが影響を受けた写真家たちのポートレイトも展示されている。「敬意を表すると同時に、過去のシリーズとの共通点を示したかった」と語るソス。偶然出会った人の部屋に招き入れてもらって、その人の世界を写真で表現する作風は初期から変わらないのだ。