「つらければ逃げればいい」――爆笑問題・太田光にとって生きることは居心地のいい場所を探し続けること #今つらいあなたへ
今も「ずっと居場所を探している」
つらかった高校時代、太田の心を未来に向ける二つのきっかけがあった。一つはピカソの絵に出会ったこと。もう一つは長野への一人旅。 「高校2年の時に長野に一人で旅へ行ったんです。島崎藤村の記念館や『夜明け前』という作品の舞台になった江戸時代からの宿場町に行きたくてね。一人旅は楽しかったな。本当に気持ちが解放されたんです」 旅先では知り合いは誰もいない。だが、教室の中で孤立するのとは違い、旅先では一人でいることに気を使わなくてよかった。一人でいることに不自然さがない環境がこんなに楽かと思った。誰も自分のことを見ていないし、誰にどう思われているかも気にならない。 「トイレで弁当を食う子の気持ちが、すごくよく分かるんです。俺も休み時間になると体育館の裏で過ごしてたから。誰もいないところに一人でいるのは楽なんですよね。俺は旅先で、自分は大勢の中で孤立していることがつらいって気がついたんです」 だったら、知らない人がいる世界に行けばいい。今は暗黒だとして、大学に入ったら何か変わるかもしれない。大きな希望も感じた。高校を卒業し大学に入学した太田は、友達が欲しいばかりに、誰かれ構わず声をかけたという。そうやって自分の居場所をつくろうと努力した。 「でもね、結局、居場所なんてつくれないんです。いまだにテレビに出ても余計なことを言ってしまうし、すぐに調子に乗って怒られてばかり。そういう意味ではずっと居場所を探しているようなもんです」 居場所を探すという行為は一生続く。生きていること自体が常に居心地のいい場所を探す行為の連続なのだと太田は言う。 「文人も芸術家も全部そうだけど、みんな悩んで、人生はうまくいかないって思っているんですよ。100%いいものができたなんて思っている芸術家は一人もいないでしょう」 悩むことがもしかすると人生なのかもしれない。だからこそ一歩動き出すことの大切さを太田は知っている。太田は、悩む人に太田にとってのピカソのようなものに出会ってほしいと切に願う。 「何でもいいから何かをやってみたいって思わせる、そんなものに出会えたらいいね。生きるってそういうことだよね」
太田光 1965年、埼玉県生まれ。日本大学芸術学部中退。1988年に同級生だった田中裕二と「爆笑問題」を結成。1993年にNHK新人演芸大賞受賞。今年9月にYouTubeチャンネルを開設。 --- キンマサタカ 1977年生まれ。大学卒業後、出版社に就職。15年に独立。写真家としても活躍。著書に『痛風の朝』『文春にバレない密会の方法』など。