高いところからボールを放しました。ボールを下に動かした「犯人」は誰…?答えを見て「なあんだ」と言うなかれ
あっと驚く面白さ。誰でも理解できる爽快さ。 アメリカの大学で長く物理学の人気教授として活躍してきた山田克哉さんの「白熱講義」から生まれた、ブルーバックスを代表する人気企画「からくりシリーズ」。 そのシリーズ最新刊である『重力のからくり』がベストセラーとなっています。「弱すぎる重力」はなぜ、宇宙を支配する力になりえたのか? 万有引力のふしぎを徹底的に解き明かす同書の読みどころを厳選してお送りします! *本記事は、『重力のからくり――相対論と量子論はなぜ「相容れない」のか』の内容から、再編集・再構成してお送りします。
物体を動かす「唯一の方法」
前回の記事で述べたように、静止状態にある物体を動かす唯一の方法は「その物体に力を加える」ことであり、他の方法はいっさい存在しません。このことは重力を理解するうえでも不可欠の大前提ですので、決して忘れないようにしてください。 ここで、手にもっている物体を、ある高さで放すことを考えてみましょう。ここでいう「放す」とは、文字どおり「放す」ことであり、放す瞬間にその物体を押したり投げたりせず、なんの力も加えないことを意味しています(たんに手と物体との接触がなくなるだけ。「放す」瞬間まで、手は物体の落下を抑え込むため上向きの力を与えています)。 ある高さで放された物体は、放された直後から下方に動き出します(すなわち、落下が始まる)。 「あれっ? 物体を動かす唯一の方法は、『その物体に力を与える』ことではなかったの?」 即座にそう疑問を感じた人は、物理のセンスに優れています。たんに手を放しただけでなんの力も加えていないのに、物体はなぜ動き出したのでしょうか?
物体に力を加えた“犯人”
動き出したからには、この物体に力を加えた“犯人”が必ず存在します。 もうおわかりですね。地球の仕業(しわざ)です。地球が物体を下方に引っ張る力を与えているのです。 では、それはいったいどんな力か? ここでは簡単に「地球が地上の物体に与える力を『重力』とよぶ」とだけ言っておきます。 そして、前回の記事で説明したように力はベクトルですから、地球が地上の物体に与える力、すなわち重力にも「方向」があります。重力は必ず、「地球の中心」に向かいます。 一般に物体を「押す」とか「引く」といった場合には、「押し引きする手」と「押し引きされる物体」は必ず接触しています。ところが面白いことに、地球が地上の物体に「重力」を及ぼす場合、地球と物体とは必ずしも接触している必要はありません。 地球は、接触なくして地上の物体に力を及ぼすのです。 重力とはどのような力なのでしょうか?