高いところからボールを放しました。ボールを下に動かした「犯人」は誰…?答えを見て「なあんだ」と言うなかれ
重力は「どの程度の力」か
ここではまず、重力がどの程度の力かということを、加速度を使って考えてみましょう。 2つの例を示します。次の図「加速度で重力の力の程度を考える」をご覧ください。 図の左は、物体が地球の中心からきわめて遠く離れている場合です。図では、たとえば月程度の距離にある場合を示しています。 図の右は、地上1万m以下の近い距離を想定しています(図中の「h」は地球中心からの距離ではなく、地球表面からの距離であることに注意してください)。地球の半径は638万mなので、地球表面からの高さ1万mの638倍です。地球のサイズを基準として考えると、高度1万mは地表にかなり近いといえます。 以下では、図「加速度で重力の力の程度を考える」の右の場合に話をしぼって、高度1万m以下の高さから放された物体の落下運動だけを考えます。その理由は、加速度を一定に保ちたいことにあります。
加速度と一定加速度
一定加速度とは「速度の変化する割合が一定である」ということなので、重力の及ぼす影響を理解しやすくなるメリットがあります。 注意していただきたいのは、落下中の加速度は一定でも、落下速度は一定ではないことです。地表に近づくにつれて、どんどん速く落下します。速度は一定ではありませんが、速度の増加率は一定なので一定加速度を保っていることになります。 もう一つ、この考察では大きな仮定を必要とします。「地上は空気がまったくなく、完全真空になっている」という仮定です。空気が存在していると、落下中の物体に上向き(落下方向と逆向き)の空気抵抗が加わるので話がややこしくなるからです。 物理現象を考える際に設けるこのような仮定を「理想状態」といいます。ここでは、「地上空間は完全真空である」という理想状態で考えていることを覚えておいてください。
「重力加速度」とはなにか
物体の種類や質量にかかわらず、物体の落下方向は必ず地球中心に向かいます。 図「加速度で重力の力の程度を考える」の右の場合、いかなる物体もその落下中の加速度は一定です。地球重力と称する「力」が落下物体を加速させていることを忘れないでください。 重力に起因する一定の落下加速度を「重力加速度」といいます。地球の重力加速度については、観測の結果から「9.8m/s²」という値が得られています。この数値は、地表から高度1万m以下の真空空間で落下する物体の速度が、毎秒9.8m/sずつ増えていくことを意味しています。 この値は一定なので、記号に置き換えることができます。重力加速度は英語で「gravitational acceleration」なので、頭文字の「g」を使います。 重力加速度(落下加速度)の値がこれだけ明瞭にわかれば、落下中の質量m(kg)の物体を地球が引っ張る力、すなわち重力は、前回の記事で説明したニュートンの第二法則(F=ma)を使って、加速度aは重力加速度gに置き換えられるので、次の式3として表されます。式3重力=mɡ 単位はN(ニュートン) 地上においては、式3によって表される「物体にはたらく重力」のことを、その物体の「重さ」というのです(正確には、物体が地表に静止している場合の重さを指す)。 重力のからくり――相対論と量子論はなぜ「相容れない」のか 自然界を支配する4つの力の中で、最も身近で最弱の力。 この宇宙に現在の構造をもたらした最大の貢献者でありながら、なぜか「標準模型」に含まれない異端児=「重力」。 素朴な問いから「物理学最大の難問」まで一気読みさせる好著!好評のからくりシリーズ その他の既刊光と電気のからくり詳しい内容はこちら量子力学のからくり詳しい内容はこちら真空のからくり詳しい内容はこちら時空のからくり詳しい内容はこちらE=mc²のからくり詳しい内容はこちら
山田 克哉