「凍頂烏龍茶」からみる台湾茶の歩み
蜜香バージョンの凍頂烏龍茶、「凍頂貴妃茶」
1999年9月21日。台湾中部で、後に「921大地震」と呼ばれる地震が発生し、鹿谷郷も大きな被害を受けました。茶農家は家屋の再建に追われて茶園の管理が行き届かなくなり、ウンカの虫害に遭ってしまいます。しかし、この茶葉を用いて製茶してみたところ、蜜のような香りを持つ、非常に美味なお茶が生まれました。これが「凍頂貴妃茶」です。茶葉がウンカに嚙(か)まれることで発酵が進み、独特の香味を生み出したのです(この製茶法は、東方美人茶や蜜香紅茶とも共通しています)。 水色(すいしょく)は明るい橙黄色で透明感があり、蜂蜜やライチのような甘い香りが特徴。口に含むと、濃厚で活力を感じさせるまろやかな味わいが広がります。茶葉は葉裏に赤い縁取りが見られ、その華やかで気品あふれる外観は、文字通り貴妃のような優雅さを感じさせます。 余談ですが、このお茶には「涎仔茶/蜒仔茶」(エンナテー)という俗称があります。「涎仔/蜒仔(エンナ)」というのは、台湾語で虫のよだれのことで、虫のよだれの付いたお茶、という意味です。茶農家の間では今も立派に通用していますので、機会があれば、現地でこの名前を使ってみてください。台湾茶の「通」として、一目置かれるかもしれません。 凍頂貴妃茶は、水出しでも楽しめます。5gの茶葉に対して600mlの水(またはミネラルウォーター)を注いで4~6時間待てば、ライチ、マスカットなどの香りが広がる凍頂貴妃茶ができあがります。また、冷蔵庫に入れて8時間ほど置くと、冷たくさっぱりとした喉(のど)越しに。暑い夏の日には、白ワインやロゼにも負けない、上品なノンアルコールドリンクとして高級レストランでも人気です。 凍頂烏龍茶を手に入れるなら、「鹿谷郷農会茶業文化館」(南投県鹿谷郷中正路一段231号)がおすすめ。ここは凍頂烏龍茶品評会の主催者でもある鹿谷郷農会が運営する店舗で、同会のスタッフが詳しい説明をしてくれるので、初心者も安心して購入できます。 台湾茶の魅力を五感で楽しめる「遊山茶訪 茶文化館」(南投県竹山鎮延平路19号)は、1880年から凍頂烏龍茶一筋に歩んできた老舗。1990年代からは烏龍茶だけでなく紅茶やギャバ茶の製造も始め、台湾茶の魅力を広めるべく、数多くの国に進出しています。館内にはミュージアムがあり、台湾茶についての知識を深められる展示や、複雑な製茶の工程を分かりやすく紹介する体験型ワークショップが用意されており、訪れる人々に台湾茶の奥深さを伝えてくれます。 (文・写真 林品君 / 朝日新聞デジタル「&Travel」)
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