老舗帽子メーカーが、がん患者向けの帽子を開発した理由:CHANVRE MAKI(シャンヴル マキ)
ー帽子が出来上がるまでの工程のなかで、難しいと思うことは何かありますか? 頭の大きさも形も一人ひとり違うので、当事者の方が抱えるすべての課題を解決するものを作るのは難しいですね。 大きさは帽子自体のサイズを選んだり、帽子についている機能を使って調整したりできますが、頭の形に合わせるのは特に難しいので、初めて帽子を着用する方でも簡単にかぶれて、どのような頭の形でもきれいに見えるパターンを考えています。
ー帽子のシルエットをきれいに保つために、何か技術的な工夫はされているのでしょうか。 職人それぞれの技術力でカバーしています。たとえば素材でいうと、“ここに下地となる芯を貼れば縫いやすくなるな、形をきれいにキープできるな”と思うことがありますが、そうすると通気性や生地の伸びが悪くなることもあって。 芯を貼らずにできる方法を考えるので、一般的な帽子は2回ほど修正すればできるところを、「CHANVRE MAKI」の場合は4回、5回と修正を繰り返しますし、あまりうまくいかないときには作るのをやめることもあります。 パターンも、生地が変わるごとに変えているので、流用することはありません。
ーかなりの手間と時間をかけて作られているんですね。お客様からはどのような声が上がっていますか? 「生きる勇気が湧いた」と言ってくださった方がいました。 脱毛すると、外出したくなくなったり、人と会うのが嫌になったりすることもあるだろうなと思っていたのですが、そう言っていただいたことで、生きることさえ嫌になるところまで落ち込む方がいるんだと気付いて。 そのときに、「そこまで人の気持ちを前向きにできたんだ。このブランドをやっていてよかったな」と感じました。
“お互いを尊重しあえる社会”を広める一助になれば
ー一般社団法人がん哲学外来への寄付や帽子の贈与などもされていますが、こうした取り組みは、なぜ始められたのでしょうか。 がん患者の方に寄り添うためには、いろいろなことが必要です。さまざまな方法がある中で、私たちにしかできないことを考えると、“がんと向き合う患者さんを帽子でサポートすること”なのかなと。 医師が行う治療ももちろんですが、それと同時に心のケアもとても大事だと思っています。がんを宣告されたことで大きな不安を感じるのは、本人だけでなく、家族の方も同じです。 一般社団法人がん哲学外来が主催している「がん哲学外来カフェ」では、“医師にも打ち明けられない不安や恐怖を打ち明けながら生きていきましょう”というテーマで、患者さんやその家族の支援を行っています。 その考え方にとても共感したので、帽子を通して支援できたらと思い、寄付や帽子の贈与を始めました。 ー佐藤様の思いと重なる部分があるんですね。本ブランドの、今後の展望を教えてください。 「CHANVRE MAKI」が、“アピアランスケア”を広める一助になればと考えています。アピアランスケアとは、外見のケアのことです。がん患者の方は病気になったことに対しても落ち込みますが、外見の変化にも同様に落ち込んでしまいます。 日本では、運転免許証の写真に帽子をかぶったままの写真を使用してもいいと、数年前に認められました。事情があって帽子を脱げない人もいるので、そういった外見に対するケアが今後もますます必要になってくると思っています。 海外では早くから外見のケアがとても大事だと認識されているのですが、日本ではまだまだです。 この考えが広まれば、お互いの事情を尊重できる社会になりますよね。「CHANVRE MAKI」が、それを広めていくきっかけになれるといいなと思っています。 ーアピアランスケアを広めるために、どのようなお取り組みをされていますか? 私は最近メディアに出る機会が多いのですが、その影響もあってか、男性が購入してくださるケースがとても増えたんです。 おそらく、その方のお母さんや奥さんなど身近な人ががんになって、何かしてあげたいけど女性の気持ちが分からない。そんなときに私がメディアに出ているのを見て、「帽子が必要なんだ」と気付いてくれたのかなと。 アピアランスケアが広まると、周りの人たちの“何かしてあげたい”という気持ちと“どのようなケアをすればいいのか”という気持ちがつながっていくと思っています。 「CHANVRE MAKI」を立ち上げたときから、帽子を作ったり売ったりするだけでなく、広い視野をもってブランドを成長させていきたいと思っていたので、こうした取り組みは続けていきたいです。 また、単なる製造業者から脱していきたいとも考えています。