宇宙に広がっている謎の「ナノヘルツ重力波」の存在。衝撃の観測報告と「時空の歪み」を生み出した源とは?【宇宙誕生の痕跡に迫る!】
ナノヘルツ重力波の発生源はなに?
重力波天文学に関する知識をお持ちの方なら、LIGOが初検出した重力波イベントの観測時間が、1秒間にも満たなかったことを覚えているかもしれません。このような重力波は、大質量天体が合体するときに生じます。実際、LIGOが初検出した重力波は、ブラックホールの合体によるものだとされています。 では、今回、チーム・ナノグラブが存在を報告した超長波長の重力波はどのようなものだったのでしょうか。 彼らが捉えた重力波は、周波数が約1ナノヘルツ、波長にして数光年という途方もないものです。我々からもっとも近い恒星であるケンタウルス座星までの距離が約4光年ですから、その距離に匹敵するような非常に長い波長の重力波だったのです。 では、このような重力波はどうすれば生まれるのでしょうか。
ナノヘルツ重力波の発生源とは!?
このような重力波をつくるためには、とてつもない質量の天体が何らかの運動をするか、もしくは宇宙空間そのものが大きく歪(ひず)まなければ生まれません。これが肝(きも)となります。 実は、パルサーを用いた重力波探査は半世紀以上も前に提案されていました。ちょうどその直後に、宇宙論に大きな革命が起きました。1980年代のはじめに、初期宇宙におけるインフレーション理論が提唱されたのです。 詳しい解説はあとに譲りますが、インフレーションとは、宇宙の最初期に空間そのものが急激に広がっていったという考え方です。この理論は、宇宙初期において「原始背景重力波」という重力波が発生したことを予言します。 この原始背景重力波こそ、本書で紹介するナノヘルツ重力波望遠鏡の究極のターゲットなのです。そのため、以降の記事ではインフレーション理論の基礎を概観したいと思います。
モンスターブラックホールが合体している!?
また、近年、天文学者たちはモンスターブラックホールの存在に気づきました。太陽の数百万倍や数十億倍もの質量をもつ巨大なブラックホールが銀河の中心には潜(ひそ)んでいるようなのです。 ただ、ブラックホールは通常の電磁波観測では見つけることは不可能です。しかし、そこから放出される重力波が観測できれば、その存在が明らかとなります。こうした巨大ブラックホールの存在や振る舞いも、ナノヘルツ重力波望遠鏡の観測ターゲットの有力候補となっています。 現時点では、今回、存在が観測されたナノヘルツ重力波の正体までは、わかっていません。しかし、ナノヘルツ重力波の観測が、新しい宇宙観測の扉を開いたことは間違いありません。 以降の記事では、宇宙のはじまりに起きたとされる「インフレーション」について紹介したいと思います。
浅田 秀樹(弘前大学 理工学研究科 宇宙物理学研究センター センター長・教授)
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