「本当のことしか言わない『騎士』とウソしか言わない『奇人』」のパズル。スマリヤンの論理パズルで「ゲーデルの不完全性定理」を考えてみると
理系の「3ワカラン」と呼ばれる「ゲーデルの不完全性定理」。「正しいからといって、それが証明可能であるとは限らない」とは、どういうことなのか? この度、リニューアル刊行されたロングセラー『不完全性定理とはなにか 完全版』のなかから「不完全性定理」、そして異なる視点からゲーデルと同じ証明にたどり着いた「チューリングの計算停止問題」のエッセンスを紹介します。この記事では、論理学者のスマリヤンが考案したパラドックスをもとに、「ゲーデルの思考」について考察してみます。 【写真】「本当のことしか言わない『騎士』とウソしか言わない『奇人』」の論理パズル *本記事は『不完全性定理とはなにか 完全版』(ブルーバックス)を再編集したものです。
スマリヤンのパズルでゲーデルの定理を
この節は、ちょっとした息抜きである。根を詰めてばかりだと疲れてしまう。知的なことがらにもエンタテインメント性は必要だ。 さて、論理学者のスマリヤンは『Godel's Incompleteness Theorems』という定評ある教科書を書いているが、不完全性定理を主題にしたパズル本も書いている。 たとえば『決定不能の論理パズル』(田中朋之他訳、白揚社)という本は副題が「ゲーデルの定理と様相論理」となっていて、パズルを楽しんでいるうちに、自然とゲーデルの定理の意味がわかってしまうという、驚異的なコンセプトとなっている。
本当のことしか言わない「騎士」と嘘つきの「奇人」
このパズル本には、本当のことしか言わない「騎士」とウソしか言わない「奇人」が登場する。 彼らは同じ島の住人だ。島には(クラブIとクラブIIの)2つの社交クラブがあって、騎士は必ずどちらか一方のクラブに属しているが、奇人はどちらからも閉め出されている(ウソつきなので)。 「ある日、この島を訪れたあなたはこの島の未知の住人が言ったことから、彼がクラブIの会員であることを推理できたとしよう。その人は何を言ったのだろう?」(13ページ) 面白いパズルである。このパズルを考えることは、ゲーデルが論文を書いたときの思考をなぞるのと同じなのだ。 5分くらいでいいので、ちょっと考えてみてください。なお、島の住人が騎士であるか、奇人であるかは、わからないところがミソだ。あの、スッと読まないで、目をつむって、本当に考えてみてくださいね。ゲーデルの思考をたどることにより、読者は、ゲーデルの定理の意味が実感できるにちがいない。