宇宙に広がっている謎の「ナノヘルツ重力波」の存在。衝撃の観測報告と「時空の歪み」を生み出した源とは?【宇宙誕生の痕跡に迫る!】
1回振動するのに1,000,000,000秒かかる波!
では、ナノヘルツとは、どのようなものでしょうか。 ナノ(nano)は「10億分の1」をあらわす接頭語です。あまり聞き慣れない単位なので、まずミリ(milli)で肩慣らしをしましょう。 ミリは「1000分の1」を表す接頭語です。したがって、1ミリヘルツは、1秒間に振動する回数が1000分の1回という意味です。1秒間に1回も振動しないのでイメージしにくいかもしれません。言い換えれば、1回振動するのに1000秒かかるのが1ミリヘルツです。 次に、ミリの1000分の1をあらわす接頭語がマイクロです。これは、「100万分の1」を意味します。1マイクロヘルツは、1秒間に振動する回数が100万分の1回を意味します。これは、1回振動するのに100万秒かかります。ちなみに、100万秒は11日と13時間46分40秒となります。 いよいよ、ナノヘルツです。ナノは、マイクロの1000分1で「10億分の1」を表す接頭語です。したがって、1ナノヘルツの文字どおりの意味は、1秒間に振動する回数が「10億分の1回」です。言い換えると、1回振動するのに1,000,000,000秒かかるのが、1ナノヘルツのことです。 計算としてはこれで正しいです。しかし、ゼロが9個も並んだため、1,000,000,000秒という時間の長さを直感的にイメージしにくいかもしれません。 1年は、SI単位系(国際単位系)で規定された1秒で、約31,556,925秒です。ちなみに、天文学でよく用いられるユリウス暦では、1年を31,557,600秒と定義します。いずれにしても、1ナノヘルツで振動する場合、1回振動するのにおよそ30年もかかるということになります。
20年にもわたる観測期間
1ナノヘルツで振動する現象では、日本人の平均寿命の間に3回弱程度しか振動しないわけですから、我々の生活でほとんど出くわさないのは当然です。ナノヘルツの重力波とは、数十年にわたって観測しても1回の振動を見ることができるかどうかというスケールのものなのです。 さらに、重力波は光速で伝わるといわれています。約30年間で1回振動する波の波長は、約30光年ということから、この超長波長の重力波の長さが想像できるのではないでしょうか。 このような重力波を観測したわけですから、やはりチーム・ナノグラブの観測期間の長さに驚かされます。主要部分の観測期間だけでも15年間、20年を超える観測期間のデータも含まれています。 小学校に入学した子どもが大学を卒業するまでにかかる標準的な期間は16年間です。その期間に匹敵する時間を継続的に観測してきたのです。基礎研究における粘り強さに驚愕せざるを得ません。
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