「モラハラ支配気質が父親の不気味さとリンクしてて笑っちゃった」躁うつ病で苦しむ日々に添えられた俳句をガチ解説【作者に聞いた】
「中学校2年生から高校1年生までのはっきりした記憶がない」 そう語ったのは、書評ライターや連句人として俳句や文芸情報をX(旧Twitter)で発信している高松霞さん(@kasumi_tkmt)。 【漫画】「躁うつでもなんとか生きてます。~俳句と私が転がりながら歩むまで~」本編を読む 家族の不幸に無意識に追い詰められていた日々と、それにより発覚した躁うつ病との日々を綴ってもらい、その心情にぴったりな俳句とともにコミカライズ。 作画は、自らのことを「霊感のようなものがある人間」と紹介する漫画家・桜田洋さん(@sakurada_you)が担当。その柔らかで心に染み入る絵のタッチと、鮮やかな色づかいが魅力だ。 今回は、これまでの回で登場した俳句を、俳人歴20年以上のベテラン2人に解説してもらう回。ガチ俳人の解説を聞く前と、聞いた後とでは、俳句を見る目が大きく変わるはず。5・7・5の17音に対して、こんなにも深い考察ができるのかと驚くこと請負です。 ――これまでのお話では、双極性障害に苦しむ高松さんを巡るエピソードと、そのときの心情に寄り添うような俳句が挿入され、主に俳句の持つ独特な雰囲気と余韻、絵を楽しむような形でした。今回はこれまで出てきたいくつかの俳句を解説する回です。俳句を解説する、という行為について、俳人側はどのように考えているのでしょうか? 高松霞さん(以下、高松):てふこさん、火尖さんに伺ったところ、「なんておもしろい質問なんだ!」と興奮していらっしゃいました。以下、回答です。 松本てふこさん:解説という言い方ではなく「鑑賞」や「読む」ことは俳句をやる上で日常なので、俳句に馴染みのない方にお見せするときはちゃんとエンタメにしなきゃ!と自分に漠然と圧をかけています。今回は桜田先生や高松さん、西川さんのお力で肩の力を抜いてお話できました! 西川火尖さん:俳句の解説って、俳句の情報の少なさを読み手の想像や知識、着眼点などで補う比較的自由度の高いものだと思ってます。同じ句でも、光をどう当てるかで影のでき方が全然違うように、たとえば、今回で言えば、なるべく高松さんの状況に寄り添いつつ、読んでおもしろい「影のでき方」になるように心がけました。 ――「人間を絞れば水や藤の花」という第1話に出てきた俳句の解説をしてもらいました。この解説を聞いて、あらためて思ったことなどを教えてください。 高松:語彙がすごくあるな、と(笑)。「人間を絞る」と「圧死」のイメージの重なり。「だらりと咲く藤の花が臓物っぽい」という連想。さすが俳人ですよね。 ――「小鳥きて姉と名乗りぬ飼いにけり」は3話に出てきた俳句でした。この解説を聞いて、あらためて思ったことなどを教えてください。 高松:「小鳥来て」が秋で、「小鳥引く」が春だとは知りませんでした。その渡り鳥を「飼って」しまうなんて、グロテスクですよね。「モラハラ支配気質の飼い主を思わせる句なんですね、それが父親の不気味さとしっかりリンクしてる」には、その通りすぎて笑ってしまいました。 ――自分が作った俳句をほかの人に評してもらうときの感情を教えてください。また、他人に見てもらう機会は多いのでしょうか? 高松:いえ、全然。今回は仕事なんで「評してください」って言いました(笑)。普段、私は「連句」という文芸をしていて、俳句の「評」文化はないんですね。たまーに誘われて句会に出るくらいで……。「いい句」と言われてホッとしました。 ――蝶の羽を背中から生やした高松さんの絵や、生贄になった絵など、幻想的で綺麗な絵柄が印象的な回でした。絵に関する感想をぜひ教えてください。 高松:絵については、毎回いただくたびに「桜田さーん!!!」って叫んでいます。私の切羽詰まった過去や現在が、詩として表現されている。桜田さんにはこう見えているんだ、もしくは、なんで桜田さんは私の見ているものがわかるんだろうって、感動しています。本当にありがたいです。 ――「虫の音や私も入れて私たち」という俳句と、友人たちと肩を並べて座るシーンが染み入り、鳥肌が立ちました。この俳句を選んだ理由について教えてください。 高松:「友達よ!」みたいな句、とリクエストして出てきた句でした。予想以上に句が引き立つ、じんわり染み入る絵にしていただいて……。句に関しては、「私」「私たち」と言うように、複数人の中でも「私」を見失っていないところがとても好きです。 高松さんも答えてくれたが、「だらりと咲く藤の花が臓物っぽい」という考察が印象的だった。解説を聞いてから俳句を味わってみると、より深くにのめりこむような感覚になるだろう。是非、俳句の世界を楽しんでみてほしい。