原発被災の飯舘村 村民に寄り添い、再生に取り組んだ元物理研究者たちの10年 #あれから私は
今年2月現在、飯舘村に住民登録をしている人は、原発事故前から約1000人減って5229人。実際に村で生活している人は1482人で、そのうち60歳以上の割合は6割を超える。田尾さんはこの現状に危機感を持っている。 「どのような状態になったら村が再生したと言えるのかは、10年経っても分からないですね。飯舘村に人は戻ってきましたが、それでも事故前の2割ほどです。しかも、高齢化が加速してしまった。これは今、解決に向かって動き出さないといけない。次の5年や10年で考えようと言っている間に、村民がいなくなってしまっては意味がありませんから」
花栽培やカフェなどを営む新たな移住者たち
だが、明るい兆しも見えている。村の誘致活動の成果もあり、移住者が増えているのだ。2020年9月の時点で村への移住者は100人を超えた。花栽培の農家、カフェ経営、林業など、それぞれの夢を叶えようと活動する20代から40代が増えている。
「飯舘村は原発事故で古いコミュニティーが崩れました。でも、見方を変えれば、たくさんの隙間が生まれて、新しいチャレンジがやりやすくなったとも言える。それを求めてやってきた若い人たちを応援しながら、村が発展していければと思います」 再生の会も新しい取り組みを始めている。2019年には宿泊施設「風と土の家」を建設し、村を訪れる人たちと村民が交流しやすい環境をつくった。この年の夏には、日本人を含む9カ国の20人ほどのグループが2週間滞在し、飯舘村の現状を学んだ。 さらに、今年の春にはアートディレクターの北川フラムさんらと協力して、地域の再生をアートとしてとらえ、発信していくプロジェクトも企画されている。再生の会に触発されるように、20代の若者がMARBLiNGという会社を立ち上げて、飯舘村を盛り上げようとする動きも出てきた。
震災から10年、一時期は全村民が避難したこともある村は徐々に「再生」されているようにも映る。田尾さんは、自分たちがやってきたことは結局、「村づくり」だったと言う。 「原発事故は人間が自然とのつきあい方を間違ってしまったために起きたこと。飯舘村は小さな村ですが、小さなコミュニティーだからこそ、自然と共生する新しい人間の生き方を模索できると思います」 2020年10月、飯舘村の村長を6期24年務めた菅野典雄さんが引退し、新しい村長に44歳の杉岡誠さんが就任した。飯舘村は新しいリーダーのもとで新たな一歩を踏み出す。ふくしま再生の会がこの10年で蒔いてきた種から、次の10年にはどのような芽が出てくるのだろうか──田尾さんは期待している。 ―― 荒舩良孝(あらふね・よしたか) 1973年、埼玉県生まれ。科学ライター/ジャーナリスト。科学の研究現場から科学と社会の関わりまで幅広く取材し、現代生活になくてはならない存在となった科学について、深く掘り下げて伝えている。おもな著書に『重力波発見の物語』『宇宙と生命 最前線の「すごい!」話』『5つの謎からわかる宇宙』など。公式note https://note.com/arafune